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運命の一夜
たった一夜の出来事が、田舎の娘である春蘭の人生を大きく変えてしまった。
「春蘭か」
「は、はい……」
「朕のそばへ。まずは話をしよう」
顔をあげることさえ畏れ多かった。春蘭の名を呼ぶのは、広大な亮国を統べる皇帝。春蘭は今宵、皇帝の寝所で夜伽を命じられたのだ。
(ああ、なぜこのようなことになってしまったの──?)
春蘭は自らの運命を受け入れることができぬまま、皇帝の命に従うことしかできなかった。
◇
「ねぇ、知ってる? 昨夜、陛下の輿が迎えに来た宮女がいるそうよ」
亮国の後宮の片隅では、今日も宮女たちが噂話をしている。
「それ、本当?」
「本当よ。陛下に見初められたんですって。今朝には才人(妃の位のひとつ)に封じるよう命じたそうよ」
「私も聞いたわ。しかもその宮女、後宮に入って三月も経ってないんですって」
「どんな手を使って陛下を篭絡したのかしら?」
「ちょっと、誰かに聞かれたら大変よ」
「ここだけの話よ。身分の低い宮女が、どうやって陛下のお目にとまったのか気になるわ」
「うらやましい。一夜にして運命が変わったのね」
「これからは妃として優雅に暮らせるのね」
「ああ、うらやましい……」
皇帝陛下の目に止まり、一夜を共にする。
それは後宮で働く宮女たちの憧れであった。
たった一晩のことであったが、夜が明ければ皇帝の妃のひとりとして認められることが多いからだ。妃となれば働く必要はなくなり、華やかな生活が待っている。
ゆえに亮国の宮女たちは皇帝に見初めらた宮女を、羨望と嫉妬の眼差しで見つめるのだ。
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