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開花していく女
春蘭はまず学ぶことから始めた。読み書きはできたが、知識も知恵も足らないと悟った春蘭は貪るように本を読み、様々なことを学んだ。他の妃が皇帝から美しい装飾品や金銀、玉、毛皮を下賜される中で、春蘭はより多くの書物を望んだ。
「美しく装い、陛下の御心をお慰めするのが後宮の妃嬪の手本だというのに、春蘭は変わり者だこと」
せせら笑う妃嬪もいたが、春蘭は学ぶことに力を注いだ。一方で璃皇后の手助けをしながら、礼儀作法や後宮の妃嬪としての在り方や付き合い方などを身につけていった。
多くの知識を学んだ春蘭は皇帝との会話にも臆さず話せるようになり、聡明な美しさを好む皇帝は春蘭を寵愛していくこととなる。才人より上の嬈妤の位を陛下より賜った。
寵愛を受ける中で、他の妃からの妨害と思われる出来事も多々あったが、春蘭は身に付けた知恵と機転の良さで乗り越えていくのだった。
やがて懐妊した春蘭に皇帝は充容という四夫人に次ぐ立場である九嬪の位のひとつを与え、無事に皇子を産んだことで昭媛となった。
後宮の妃嬪として皇子を産むことは最も大切な御役目であったため、春蘭に嫌がらせをするものもいなくなった。しかし春蘭にはひとつの懸念があった。
(私にも、私の実家にも息子を守るだけの力はない。どうすればこの子を立派に育てられるの?)
後ろ盾となる有力な一族や役人がいなければ、いかに陛下に寵愛されたとしても陰謀によって幼子の未来はなくなってしまう可能性があった。
考えたあげく、春蘭は後宮内で最も信頼する璃皇后に頭を下げた。
「皇后様、お願いがございます。私の息子を皇后様の子として育てていただけませんか?」
常に穏やかな璃皇后の顔が、輝くように明るくなったのを見た春蘭は心から安堵した。
(やはり皇后様は、私の子を養子としてもらい受けることを最初から望んでらしたのだわ。これでいい。私の息子は皇后様の養子として将来を約束されたもの)
力なき妃嬪は子どもの安泰を願い、より力のある妃に自らの子を託すことが後宮内ではあった。少しでも幸せに、何より生き延びてほしいと願い、お腹を痛めて産んだ子を泣く泣く他の妃に差し出すのだ。
春蘭も初めて産んだ子を養子に出すことは、身を切られるより辛いことであったが、息子の幸せを願って璃皇后に託したのである。
「ありがとう、春蘭。この子は必ず立派に育ててみせるわ。春蘭、貴女はわたくしの妹も同然。二人きりの時は、『お姉様』と呼んでちょうだい」
「ありがとうございます、皇后様、いえ、お姉様」
璃皇后と義姉妹としての絆を得た春蘭は、後宮内での力を確実に身につけていった。
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