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窮地に陥る女
春蘭が息子を璃皇后に託したことで、璃皇后は笑顔が多くなり、皇帝陛下もたいそう喜んだ。
「春蘭、そなたのおかげで皇后が笑顔になった。これからも義妹として皇后を支えてくれ。そなたを昭儀に封じよう」
「陛下、ありがとうございます」
皇帝からも皇后からも信頼されていく春蘭を、「実子を出世のために利用した」と囁くものがいたが、春蘭は唇を噛みしめて耐えた。
(息子が無事に大きくなれるのなら、どんなことでも耐えてみせるわ)
陛下の寵愛が続いた春蘭は次々と子どもを授かり、二人の公主と二人の皇子を産んだ。子だくさんな春蘭を皇帝は褒めたたえ、ついに四夫人のひとつである『貴妃』の位に封じた。それは璃皇后の力添えもあってのことだった。
璃皇后は養子となった第三皇子(春蘭の子)をこよなく愛し、教育にも力を入れた。皇帝も利発で健康な第三皇子を愛し、皇太子として期待するようになっていった。
万事順調だった日々に、思いもしない事態が春蘭を襲う。
「皇后様、どうか第三皇子のためにお元気になってくださいませ!」
璃皇后が病に倒れてしまったのだ。第三皇子はまだ成人になっていない。
春蘭は必死に看病をしたが、皇后の命の灯火は潰えようとしていた。
「春蘭、あなたのおかげでわたくしは母になるという夢を叶えることができた。ありがとう。天から見守っているわ……第三皇子をお願いね……」
璃皇后は春蘭の手を取り、涙ながらに懇願した。それが最後の言葉となる。
「皇后様……!」
「皇后、目を開けよ。朕を置いていくなぁ!」
皇帝の妻として、そして後宮を束ねる皇后として陛下をよく支えた璃皇后は天へと旅立った。
本当の姉のように慕った皇后がいなくなってしまった。春蘭は絶望の淵へと追いやられた気がしたが、泣いてばかりはいられなかった。
(第三皇子と子どもたちを守らなくては……!)
璃皇后が身罷られたことで、空位となった皇后の座に誰がつくか議論され始めていた。
聡明で優しく、陛下の寵愛を受けている蘭貴妃(春蘭)か、朝廷内で大きな力をもつ一族出身の徳妃か。皇帝も次の皇后を決めかねているようだった。
春蘭もまた皇后になるべきか否か迷っていた。権力に興味はないが、皇后となれば子供たちを守りやすくなるのは確かだからだ。
(第三皇子をお守りし、子どもたちを守るにはどうすればいい?)
春蘭にとって最後の決断が迫ろうとしていた。
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