公園で一人

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 新学期早々、体育の時間は体力測定から始まる。握力、柔軟はいいとして、短距離、逆上がりは何だ? 出来なかったら何なんだ?  近所の同級生のマキちゃんと遊んでる時、マキちゃんは案外運動ができるので一緒に走ってみたら私の方が早かった時もあって、あの時は心の底からやるな、わたしもと思ったけど、実際学校でタイムを測ったら遅い方だ。  そして逆上がり。できないのは分かっているので、歩いて10分のところにある公園で一人、逆上がりの練習をできるまでやろうと頑張った。でも一回も出来なかったら。そのうちあたりは夕暮れ空から紫色に変わりつつあった。鳥たちも暗くならないうちに自分たちの居場所に帰って行く。人も居なくなりどこからか大根の煮物のような夕食の匂いがする。  あと10回、やってみる。そう決めた。でも出来なかった。悔しくって普通にジャンプして鉄棒にくるりと何回も回った。何回も。  薄暗くなった道をテクテクと歩いた。 家の玄関に入るとハンバーグのいい匂いがした。急にお腹が空いた。  「おかえり」お母さんはそう言って、夕食のは用意をしている。何だかあの逆上がりの悔しさはどこかへ消えた。  お風呂に入ろうと思ったら、骨盤のあたりにアザが出来ていた。鉄棒の跡だ。  神様は何で逆上がりが出来ない私なんですか?とずっと思っていた。     学校の休み時間に猫の絵を描いていたら、以前から気になっていた男子から、 「絵、上手いじゃん。俺なんか猫を描いても、犬なんだか猫なんだか、絵のセンス全くなし」と、言われた。それから話をするようになった。  私は思った。逆上がりが出来ない自分でも褒められるところはあるもんだと。  大人になってみれば人生は、そんなことの繰り返し。  家の猫がスヤスヤ寝ている。 人間も嫌な事があったら早く寝て忘れて次の日を迎える事だな。
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