うそつきは泥棒の始まり

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「うそつきは、泥棒のはじまりだよ」  隣の席に座っているクラスメートの彼女は、そう言いながらも、うふふと一人で笑っていた。  彼女にいきなり振られてビックリした僕は、一瞬落としそうになった弁当箱を掴みなおして、自分のバッグにしまう。  もしかしたら、僕の気持ちに気が付かれたかもしれない。そう思うと気が気でなかった。僕の心臓の鼓動は少しだけ早くなった。額にもうっすらと汗が出始めたのを感じてた。  ☆ ☆ ☆  新学期のクラス替えで、僕は彼女と同じクラスになった。憧れていた彼女と同じクラスになれたんだ。  しかも、席が隣同士。  もうこれは天の恵み、天の采配以外の何物でもないだろう? 僕はその日の帰り道、何回も顔の筋肉を緩ませながら、天の神様や地の神様に感謝したんだ。  ☆ ☆ ☆  でも、実際にそれ以上の進展なんて普通はありはしなかった。毎日のルーチン的な挨拶と、プリントの手渡し以外には何もなかった。  ああ、これで今年の運を全て使い切ったんだ、そう思っていた矢先に起こったのが今日の出来事だった。  ☆ ☆ ☆  前に座ってる級友の鈴木信二が、後ろを向いてクリームパンをかじりながら僕ととなりの彼女を交互に見ながら突然爆弾発言を振り込んできた…… 「そーいえばさ。おまえ隣の彼女の事、昔からじーっと見てたよな? 俺、実は気が付いてたんだよ。良かったよな、好きな子と同じクラスになって、しかも隣の席にもすわれてな」  僕は口に入ってたご飯を慌てて飲み込みながら、箸を持った手で彼の口をおさえようとした。  そして、そっと隣の彼女の顔を横目でみる。  彼女は、ちょっとビックリしたようで彼の口元と僕を交互に目で追ってから僕に向かって口を開いた。 「田中君て、私のこと……?」 「いやいや、鈴木って、ちょっと思い込みが激しいところがあるから、誤解してんだよ」  僕は鈴木のクリームパンで汚れている口元をしっかりと手のひらでふさぎながら、すこし上ずった声で答えた。 「へー、そうなんだ……」  少し上目遣いで意味深な瞳を僕に向けながら、彼女は口元をナプキンで丁寧に拭く。それから、おもむろに自分のお弁当箱を片付けだした。  爆弾を落とした反応が想定と違ったからなのか、鈴木はつまらなそうにパンの袋を捨てに教室から出て行った。  そして、ほんの一呼吸置いてから、僕に最初の言葉を投げて来たんだ。  ☆ ☆ ☆  僕はドキドキしながら、もう一度彼女の方を見た。  彼女も、僕をジッと見つめて来た。  ああ、どうしよう。このままなんて声をかけたらいいんだろう。 「ごめん、僕はどろぼうの始まりでした」  僕は彼女の視線に耐え切れずに、目をそらしてから。  振り絞るように一言だけ呟いた。 「うん、ありがとう。これからもよろしくお願いします、田中君」  彼女は僕に向かってゆっくりと頭をさげた。  お昼休みが終わる事をつげる予鈴の音が天上界から聞こえて来る……ああ、人生に幸あれ! 了
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