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馬車が屋敷に着く直前、私はシャーロックに話しかけた。
「……ねえ、シャーリィ……お父様はお怒りになるわよね?」
わざと起こした行動だけれど、声は自分でも驚くほど弱々しかった。
シャーロックは真っ直ぐに私を見つめ、それから嫣然と微笑んだ。
「旦那様のお怒りこそが求めるものです。ローザ様、今宵は最高でしたよ」
「けれど……ルーチェ様をあのような目に遭わせて……」
「だからこそです。今度こそは旦那様もローザ様をお許しにならないでしょう。私たちの願いが叶うときが来たのですよ、お屋敷に着いたら最後の仕上げです。出来ますね?」
願いが叶う──その一言に、私は自分を奮い立たせた。
「ええ……ええ、そうね。これで、私たち二人は……」
「はい、その通りです」
やっと、想いが叶うのだ。
身分が邪魔してきた恋が実る。シャーロックは私のものになる。代わりに失うものは、既に諦めたものだけだ。恐れてはいけない。
屋敷には早馬が知らせに行っているだろう。お父様はどれだけお怒りか。でも、これでお父様と対峙するのも最後になる。もう、気を張らなくていいようになるのだ。
私は黒薔薇を演じきり、そして、ただのローザになる。たった一人が愛でる可憐な薔薇になれるのだ。
その為にも、歪んで冷酷無慙になった棘の花を貫こう。
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