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屋敷に着くと、その足でお父様のもとに呼び出された。
お父様は怒り心頭で魔物のような顔になっていた。
「ローザ! お前は何という恥さらしな真似をしてくれたのだ!
ルーチェ様は取り乱してバルコニーから飛び降りようとまでしたのだぞ! お前には人の心がないのか! 我が家の汚物だ!」
「あらお父様、私は悪気はありませんでしたわ、ルーチェ様には容姿に見合わないドレスをお召しでしたの、ワインは彩りに良いかと思いましたし、裾を踏んでしまったのは偶然ですわ。まったく、恐ろしい夜でしたこと。ルーチェ様にはご自身を客観的にご覧なさればよろしいのよ、脂身だらけのお体に見合ったドレスをお召しになって頂きたいわ。そもそも、最初に嫌味を言ってきたのはあちらですもの、人を呪わば穴ふたつ、自身のおこないは自身に返るものですわ」
内心で震えながらお父様を挑発すると、案の定お父様はお怒りを爆発させた。
「では、お前のおこないもお前に返るものだな! よろしい、もうお前を娘と思わぬ! この家から出ていき、二度と顔を見せるな!」
つまり勘当ということか。
「……ええ、そうさせて頂きますわ。伯爵家から一人娘を追い出すとはお父様もスキャンダルを恐れない豪胆な方ですこと、末長く笑い者になりますように」
「いいから出ていけ!」
「一度言われれば分かりますわ、では失礼」
お父様の書斎を出て、ドアを閉める。その手が震えている。シャーロックが控えていて、私は彼にすがりつきたいのをこらえた。
「ローザ様、ここは人目につきます。──こちらへ」
シャーロックが小声で促す。私は言われるまま従った。
連れて行かれたのは、シャーロックの自室だった。誰にも見られないよう気をつけながらの道のりのあと、二人きりになる。
「……まさか、旦那様が勘当なさるとは誤算でしたね。私は幽閉するものと思っておりましたが」
「シャーリィ……?」
シャーロックの無表情が、お怒りだったお父様より怖い。
「ローザ様もご存知でしょう?
私の家は代々この屋敷にて優秀な執事として働くことになっております。私も、その為に育てられました。幼い頃から、それだけの為に教育を受けてきたのです。そして、それは叶った。私は旦那様からのご信頼を得る為に働いてまいりました。──ローザ様のこと以外は。けれど、私は執事です」
「シャーリィ……ねえ、貴方、何を言いたいの? 私、貴方の言う通りにしてきたわ」
「ええ、よく言うことを聞いてくださいました。しかし、言ったでしょう? 誤算だと」
頭から全身まで、血の気が引いてゆく。シャーロックは何を言いたいのか。
私はシャーロックに手を伸ばして、はしたないのも気にせずに抱きついた。シャーロックの体は温かい。なのに、心の温度が分からない。シャーロックは、静かに私の体を引き離した。そして、告げる。
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