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「ローザ様、もし貴女様が本当に願いを叶えたいのであれば、『黒薔薇』と呼ばれるようにおなりください」
それは、14歳のときのこと。社交界デビューを控えて、その後持ち込まれるであろう縁談の数々を思い気鬱になっていた私に、あの男はそう告げたのだ。
そんなことをさせる、あの男こそ黒薔薇だと、当時の純心な私は悟ることも出来ずに、藁にもすがる思いで受け入れた。
それは、唯一の希望だったから。
伯爵令嬢の私には手駒として生きる他なかった、その変えられない事実と未来を変えるための。
「……そうすれば、貴方が手に入るの? 誰もが忌み嫌う黒薔薇になれば、お父様もお母様も、私を諦めてくださるの?」
あの男は目を細めて頷いたのだ。
「はい、ローザ様。ご両親も貴方様が使えない駒だと分かればお諦めになられて、きっと貴方様をお捨てになってくださいます。ここからが、私達の誓いです。貴方様には私がついております。私の言う通りに出来ますね?」
あの男の暗い笑みは美しかった。誓いは私への愛だと信じずにはいられなかった。私は震える胸にこみ上げるときめきを抑える術を知らなかった。
だから、心に決めた。
悪の化身になると。誰からも黒薔薇と言われ避けられる、忌避すべき令嬢を演じ抜くことを。
初めて抱いた自己の意思を──恋を実らせるために。
「お前を信じるわ……私は必ず黒薔薇になってみせる。禍々しい毒花として、鋭い棘を持つ薔薇として、全てから見放されてみせるわ。お前を除く全てに」
あの男は、なんて酷なことを言ったのだろう?
まだ幼さの残る、多感な少女に自ら孤独になれとは。
それでも、──私は悔やまないと決めたのだ。
絶対に、あの男だけを手に入れると決めた。あの男だけでいいと。他には何も求めないと。
どれほど苛烈な恋であっても。
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