セイシノハナ

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 ほんの数歩,車が見えなくなるくらいまで歩いたところで,頬を植物が撫でた。 「うわっ」  頬に触れた瞬間,それが柔らかい葉だというのはわかったが,どこからその植物が生えているのか分からず驚いて声をあげた。植物は揺れながらまるで微笑んでいるかのような耳には聞こえないが,笑い声を立てたような気がした。 『ふふふふ……』  湿り気のある柔らかい細かい葉が霧の中から現れたかと思うと,目の前で小さな白い花が開いた。最初は一輪,ゆっくりと花が開くと,次々と花が開き,強烈な異臭が鼻の奥を突いた。 「え?」  視界のすべてを埋め尽くすように白い小さな花が咲き乱れ,同時にむせかえるような臭いが胃を鷲掴みにするかのように不快にさせ,その場でくずれ落ち,何度も嘔吐した。  突然の出来事に驚いて車に戻ろうと立ち上がると,ふらふらと来た道を戻った。目が回り胃が締め付けられる痛みに,植物の毒を直接吸い込んだのかと思い,両手で口と鼻を押さえながら車へと向かった。  身を低くして植物に触れないように注意しながらが進んだが,すぐ近くにあるはずの車を見つけることができなかった。  足元の砂利を確認しながらアスファルトの道路がどこにあるのか探したが,どれだけ移動しても砂利から出ることができなかった。 「どうなってんだ……?」  歩けば歩くほど,真っ白な花は咲き乱れ,目の前で花が開いては毒毒しい異臭を撒き散らした。 「マジで臭えな……なんなんだよ。それにしても,おかしい……車からそんなに離れてないはずなのに……」
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