ガンマンの逸才

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 目の前に自分を馬鹿にする人間を認めると、殺したいという衝動に駆られる程、頭に血が上ることがある。それこそ瞬間湯沸かし器よろしくその場でかちんとしてかっかするのだ。そんな時にもし、ピストルを所持していたならば、その相手を撃ち殺すだろうが、所持していないから撃ち殺さないだけの話でピストルが手に入りさえすれば、いつ殺人犯になっても可笑しくないのである。だから僕は危険人物と言えなくもないが、相手が僕の立場に立って考え、僕を思いやる度量がなく只々馬鹿にするからいけないのであって事有れかしと僕の弱味に付け込んで僕を怒らそうとする根性の腐った卑劣な俗物こそが危険人物なのである。  そう思う信吾は、不遇を託っているのに違いなかった。そんな境涯にあって相手に笑われ、時に怒るが、その熱気と熱情は保温されないスープのように時間が経つに連れて冷めて行く。そして白々とした冷静さを取り戻す。それを繰り返して信吾は娑婆で何とかかんとか罪を犯さずに生きのびているようなものだった。
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