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 信吾はまだ三十代で若いのだが、中古で買った小さな一軒家に住んでいる。周囲に溶け込んでいない所為もあって今の文化より古い文化に親しみ、また昔ながらの勧善懲悪ものが好きなので1974年に公開された洋画「狼よさらば」の主人公、ポールカージーに扮するチャールズブロンソンに憧れ、僕もあんな風にピストルで以て自警主義を実践躬行できたら良いのになあと思いながらユーチューブでその動画を観ていると、バルコニーの方で何か落下する物音が聞こえた。  上から飛んで来たものか、下から投げ入れられたものか、大きな金属音だったので一体なんだろう?ガキのいたずらだろうか?と確かめない訳にはいかなくなった信吾は、バルコニーに出てみると、エアコン外機の横になんと黒光りするピストルが落ちていた。  ガキの玩具だろうと推量して信吾はそれを拾い上げると、いやにズシリと重みがある。全くリアルだ。  リボルバータイプでシリンダーを左に振り出すと、チャンパーに弾がきっちり六発装填してあるのが分かった。ハンマーを引き起こしてトリガーを引くシングルアクション式だ。紛れもなく西部劇の早撃ちでファンを魅了したハリウッドスターも使用したであろうコルトピースメーカーの本物だから重い筈だ。これはダブルアクションと比較して連射時に時間を食う欠点はあるが、ハンマーを先に持ちあげてある分、撃発までのトリガーのストロークがショート且つライトになる利点がある為、手振れが少なく射撃の精密度が増す。  もし、信吾が人を射殺するとすれば、何人もを一網打尽にという状況は幾らなんでも起こりそうになく一人を確実に殺せればいい訳だから精密な射撃が出来る方がベターだ。従ってこのピストルは信吾にとって願ってもない代物だった。  しかし、誰が何の目的でどうやって入手して投げ入れたのだろうか?それとも天からの贈り物で悪しき者を殺せという神のお告げなのだろうか?今まで数奇な運命を辿って来た僕に対する天の恵みか、天の配剤か、信吾はそう信じたくなった。
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