14:試し(後編)

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14:試し(後編)

落ち着け。 刃は通らない。斬撃や衝撃ではダメージは望めないだろう。 皮膚の表面が硬くなるだけなら関節は極められる筈だ。 ならば________ 俺は服の内側からおもむろに持ってきていた本を取り出した。 大きさは国語辞典程度なので、多少重かった。 「魔法書、かしら?」 「正解。」 この世界の魔法は即席型と筆記型に分かれる。 俺が以前使っていたのは即席型の魔法のみだ。 即席型は自身の魔力で自身の属性の攻撃を放つというものだが、筆記型は本を使う。 職人が特別な植物を使って作られた紙に自身の属性の魔法を刻み込む。そして、この紙を集めたのが魔法書。 手に持って念じるだけでそのページに刻み込まれた魔法を使えるという便利な代物だ。 ただ、一回使ったらそのページの魔法はページが消滅して二度と使えなくなる。それに即席型より威力は劣るし、この厚みの本を持ち運ばなければならないのは大変だ。 一方で、自分の使えない属性の魔法が使えることや、自分の魔力を消費しないので魔力が少ない人でも使えるという利点もある。 咄嗟に水と火の魔法が刻まれているページを開き、魔法を発動させた。 2種の属性がぶつかり、蒸気が発生する。 これによって、あちらの視覚を制限しようという算段だ。 おまけに、アルビノは生まれつき視力が弱い。申し訳ない気もするが、これを利用したかった。 視界が白く覆われる。かなりの量を発生させたので俺もあちらの姿を確認することは不可能だが、こちらは予め位置を記憶してあるので有利だ。 足音を殺して背後に接近する。そして、そのまま腕を取って____________ その瞬間、俺は逆に腕を掴まれていた。 「しまっ_________」 体の自由を奪われた俺の顔に向かって刃が繰り出される。 なんとか命中する寸前で後ろにのけぞって避けることに成功したが、あと5mm程度の場所だ。 俺の顔の上を刀が通過していく。 体勢を立て直して反撃しようと思ったその時______ 自分の体に蹴りが命中していた。後方に飛ばされていく。 2m程宙を舞い、体勢が不安定な状態で足音が近づいてくる。 『生命感知』を発動させているので、方向は粗方把握できるが近づいてくるスピードが不規則な所為でタイミングが掴めない。どうやら、こちらの策を利用されたようだ。 刹那、霧の中から右脇腹を狙った刀が現れる。 瞬時に即席型金魔法で、掌の真ん中を強化して受ける。金塊が出現し、火花を散らして斬撃を防御。 腕にはっきりと衝撃が伝わっていくのが分かった。 だが、防いでも更なる追撃をしようと刃が動き始める。 それを防ぐようにに筆記型木魔法によって生み出された枝が、柚月の刀を持っていた右腕に絡みつく。 本来、筆記型木魔法の枝は兎に角弱いが、数ページ分を同時に行使し、強度を底上げした。 この一瞬、相手は動けない。 決着をつけるのならば今しかないと、肩の関節を極めにいく。 指先がそれに触れ、がっしりと掴んだ_________ だが、完全に極める前には俺の脇腹にはナイフが突き当てられていた。
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