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君の心臓は、もうその機能に疲れ果ててしまった。だから、僕は初めて、あの部屋以外で君を前にした。
君が来ると、光の差さない部屋でも、身を焦がされるようだった。
けれど、不思議と痛くなかったんだ。あの忌々しい呪いと違って、君は僕の肌を通り越し、心だけを焼いたんだ。
困難を乗り越え、俗世で築いた家族と楽しく暮らすはずだった君も、また苦しんでしまう。
今度は、出会った時とは比べ物にならないくらいに。
だから僕は、誰もが恐れたこの牙で、観察されるだけだったこの体に、君を取り込む。
「ごめんね。約束、ちゃんと結んであげられなくて」
僕がいつからあの部屋にいるのかと、君は聞いた。人間の数え方なんて、もう忘れてしまった僕には、ああ答えるしかなかったけれど。
「でも、君が僕より永く生きるなんて、無理なんだよ」
逆に聞きたかったよ。君はどうして、地下で眠る僕の元に辿り着いたんだ?
「夜だけに咲く花って、知ってる? すぐにしぼんでしまう……。君を見ると、その花のようだと思うよ」
怖がらないでいてくれるかな……? 僕に、久しぶりの体温を与えてくれた君には、絶対に痛い思いはさせないから。
「本当のこと、言えなくてごめんね。ありがとう、僕に君の日常をくれて」
安らかに、おやすみ――
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