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〜episode1〜
(CM side)
この頃、だいぶ日も延びてきたし、暖かい日が続いて、春の訪れを感じさせる桜の花が咲いた
(もう、春か…)
その日は、少し寒の戻りがあって、朝から少し冷え込んでいた
仕舞ったばかりのダウンジャケットを引っ張り出し、羽織って
寒空の中俺は、進級したばかりの大学へと向かった
(今日は何時になく冷えるな…)
隙間風の入る古い校舎で講義を受け、自宅へと戻っていった
高校を出てから、親元を離れ、この地で一人暮らしをしている
学費や、家賃は親が出してくれているが、講義がない日は、生活費を稼ぐ為にアルバイトをしていた
それはいつものように、バイトのある日だった
朝から冷え込んでいると思ったら、雪がチラつき始めた
この時期にしては珍しい…
持っていた傘を広げて、足取りを早めアルバイト先へと向かった
大学に入ってから、もう二年もこのバイトをしているから、もう慣れたもの。
雪の結晶が随分と大きくなってきたので、立ち止まり、ふと空を上げると、其処には雪に負けまいと、桜の花びらが、必死に寒さに耐えていた
(桜も、大変だな…昨日まで暖かかったのにな…)
地面に目をやると、散った桜の花びらが、人々に踏まれ黒く変色していた
(儚い…)
踏まれた花びらに、なぜか自分を重ねてしまったんだ
毎日、家か大学かバイトのみの寂しい生活…
正直、夢や希望なんて見出せなかった
「はぁ…」俺、なにやってるんだろう?
急に虚しさと寂しさが込み上げてきた
いつも通りバイトを終わらせ、降り積もる雪の中ポケットに手を突込み、身体を丸めながら足早に帰路を急いだ
ふと人影を見つけ、顔を上げた俺の目に映ったのは、桜の木の根元に倒れた人だった
いつもなら、面倒なことに巻き込まれたくない俺はスルーするのだが、なぜかほっとけなかった
その人は、雪のように白く透き通る肌が印象的で中世的な顔立ちだった
(男?女?こんなとこに寝てたら、凍死する・・)
声を掛けてみても、反応はない・・・
口元に耳を当てると、辛うじて息はあった
俺は思わず抱きかかえるように、自宅へと連れ帰ってしまったんだ
その身体の軽さに吃驚しつつも、すぐにヒーターをつけ、布団をかけた
ハッとした
俺はなぜ連れてきてしまったんだろう?
布団だって一つしかない。こいつを寝かせたら、俺は?
凍える寒さの中、ダウンジャケットを羽織ったままソファーに寄りかかり、疲れもあってかウトウトしてしまった
暫くして
「ありがとう、チャンミン・・・」
聞き覚えのない声で呼ばれた俺の名前
「ん・・・?」うっすらと目を開けると、そこには
さっき寝かせたはずの人が立ってた
「なんで俺の名前・・・?もう・・・大丈夫なのか?」
俺の問いに優しく微笑み返し、頷いた
次の瞬間
眩しいほどの光に目を瞑ると、ふわっと身体が軽くなり、温かさに包まれた
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