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「何……だと!」
手に持った白のストーンがカラン……と乾いた音を立てて床に落ちる。
「馬鹿な! 何があったと言うんだ?! 名人位決定戦は全勝が原則だぞ? しかも相手全員が『位階8』でだ! それを……あのジョーワが、だと!?」
理解の範疇を超える事態に、頭が付いてこない。
寄りにもよって、あのジョーワが名人位だと? そんな馬鹿な!
ジョーワの名前はよく知っている。ここ数年でメキメキと台頭してきた若手の急先鋒だ。
『貴族の出』で早くから中央で注目されており、位階昇格試験の資格を得るのもトントン拍子だった。資金的にも余裕があって、別邸にて多くの門弟を集めて指南をしていると聞く。
いわば、自分の対極的存在。
それだけでも気に食わぬというのに、もっと腹立たしいのが『ロクに戦っていない』という事実。
普段からして自身の門弟を相手にしても、位階の低い者たちを相手にすることが主で、『位階5』など高位の弟子を相手にする事すら稀だという。
ジョーワと戦った数少ない者たちの証言によれば『確かに勝ちはするが、それほど圧倒的ではない』という。モノクロムは少しの腕の差が大きく盤面を左右する。50個以上のストーンの差が開く一方的な展開も珍しくない。
そんな中にあって『小差』というのは、『たまたま運が悪かった、良かった』程度ですら有り得るのだ。
そんな人間が『位階8』相手に全勝して『名人位』だと? いったい、何が起きたというのか……。
暫く呆然としていると、ほどなくしてあのモトミが突然『位階8』に昇格したという報が飛び込んできた。
「インセキ様、これは如何なる事でありましょうか? 昇格試験はまだ先のはず、つまり無試験での昇格とは過去に例がありませぬ」
弟子のインテツも困惑気味であった。
「ううむ……さては、これは」
もしかしたらという疑念が湧いてきた。
「出来レースか……!」
この筋を読むのに天才肌な思考は必要あるまい。
ジョーワが他の3名を『善きに計らう』など何らかの方法で懐柔し、更にモトミに対して『位階8』への無条件昇格を餌にして総元締めであるパイン公爵へ働きかけをしたという推測は簡単に出来る。
そういう話をもっとも毛嫌いするであろう自分が抜けて、さぞかし話は簡単に進んだ事だろう。
「ゆ……許せん! 断じて許せん! おのれ見ているがいい! ジョーワめ、……必ずや貴様の化けの皮を剥いでくれるわ!」
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