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1:予想外の誘い
「花見しましょうよ。花見!」
バイト先の休憩室。突然上がった宣言に、やはりな、と思う。
テーブル越しに小柄な体を乗り出しているこの後輩は、季節ごとのイベントでは必ずと言っていい程、バイトの連中を集めて騒ぎたがる。殊に春先の花見に関しては、大学も休みのためか、今まで声を上げなかったことがなかった。
「あーそう」
「テンション低! そんなだから内定出ないんですよ」
「えぐるねー」
傷口を。
彼女とは長い付き合いだ。互いに遠慮も無くなったもので、休憩時間に顔を突き合わせては軽口を叩き合うのが通例だった。
「まあ、勝手にやってくれ」
自分は一度も彼女の誘いに乗ったことがなかった。言わずもがな、この手の集まりにおける周囲のノリについて行くことができないからだ。
高校生の時に一度、「クラス会」なるものに参加した時などは悲惨だった。カラオケで順番が回ってきて、唯一歌える中学の合唱曲を歌った時のあの雰囲気には、今でもたまに思い出しては胸がつまる思いだ。
そんな僕にとって花見などというものは、全く参加する意義を感じられないもので、断るのが当たり前で、それで問題なく今日まで過ごしてきた。
彼女のような人種には、誘う当てなどいくらでもいるのだから、自分一人の参加不参加など大した問題ではない。
そのはずだった。
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