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その矢先、僕の体が止まる。
「……え?」
見ると、彼女の手が、僕の服の袖を掴んでいた。
つい先ほどまで目元に涙まで浮かべて笑い転げていた彼女が、いつの間にか真剣な表情でこちらを向いている。今まであまり見たことのない彼女の態度に少し気圧されて、僕は身構えた。
「何だよ」
「来てほしいんすけど。先輩にも」
……これはどうやら冗談ではないらしい。
鈍感な自分でも流石に気付き、同時にため息をつく。
どうして自分なんかに来てもらいたいのか。彼女の考えが到底理解できなかった。
「……嫌だよ」
「どうしてっすか?」
「分かるだろ」
「……」
彼女は沈黙した。きっと僕の意図は、彼女に正しく伝わっているはずだ。
このファミレスでバイトを始めてもう四年近くになるというのに、とうとう僕にはまともに話せる相手が彼女と店長以外にできなかった。
僕の希望した勤務時間帯が深夜帯であり、基本的に他の同僚と勤務時間が被ることがなかったというのも理由の一つだが、そんなものは表向きな言い訳に過ぎない。
最も大きな原因は、僕が自分から同僚に話しかけることをしなかったせいだ。
僕は怖かった。
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