2:帰り道

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2:帰り道

 店締め作業を終え、キッチン担当の同僚と別れると、一人家路につく。  時刻はすでに日をまたいでおり、辺りは暗く、静寂に包まれていた。  何も考えず、足元だけを見ながら、両足を交互に前に出すことだけに集中する。  そうしなければ、余計なことに思考を引きずられてしまいそうだ。  車が全く通らない信号を律義に守り、交差点を渡ると細い路地へと入る。その先の公園を突っ切るのが家への近道だ。  公園の前までつくと、いつもなら躊躇いなく進んでいけるはずのその場所で、ふいに足が止まってしまった。  原因は、桜だ。  この公園は道沿いに桜の木が並んでおり、この付近では恒例の花見スポットとして有名だ。  公園を通れば、嫌でも桜に囲まれながら歩くことになる。まだ開花して間もない桜は、注視して見なければそれと分からないほどささやかなものだが、それだけでもきっと、今の僕なら嫌な気分になるだろう。  遠回りしようかとも思う。しかし、近道をするのとしないのとでは、少なくとも5分以上の差が出る。ただでさえバイト終わりで疲れていて眠いのに、余計な労力を被るのは勘弁願いたかった。  ……第一、どうして僕がたかが植物のために気をもまなくてはならないのか。僕の日常は、こんな些細な気の迷いで侵されてしまうようなものではないはずだ。  半ばやけになって、僕は一歩を踏み出す。
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