2:帰り道

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 一体、こんなもののどこに魅力を感じるというのだろうか。実物を前にして、疑問は深まるばかりで、それが同時に、他者と自分との隔絶をより一層明確なものにしていた。  ただの樹木と、それに付随する花弁にすぎないものを、なぜあれほどまでにありがたがるのだろうか。まったく、どうかしているとしか思えない。  そこまで考えて、「こんなもの」に対してここまで思い悩んでいる自分もまた、滑稽な存在に思えて唇をかんだ。  携帯電話を取り出し、メール欄を開く。そこには、後輩から来た花見の日程を知らせる文面が表示されている。日付は、丁度一週間後の週末だった。  一日、完全に予定のない日だ。  適当な理由をつけて断ってもいい。しかし、今日の彼女の様子からして、無理矢理にでも僕を連れ出そうとしてくるのかもしれない。それを完全に断りきるというのは、正直面倒だった。  だったら、別に参加してもいいのかもしれない。それが、揺れる桜の木の下で僕が下した判断だった。  花見に行ったところで、いつも通り隅っこの方で粛々と佇むだけだ。時々後輩が話しかけに来るだろうが、彼女とていつまでも僕にかまっているわけではないだろう。  とにかく、他人のことでいつまでもうじうじと思い悩むこの時間が嫌で、僕はそれ以上何も考えることをせず、家路を急いだ。  ますます勢いづき、次々と花を開かせる桜の存在に、気付かないふりをしながら。
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