smashing! ここもおまえのいばしょ :Re

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佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。本日は水曜により午後は休診です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 雲母がその話を知ったのは、丁度佐久間宅でメケメケの特製ブレンドと裏メニューの裏プリン(デリ)を振る舞われていた時。受信したのは伊達からのメール。スプーンを咥えたまま、携帯の画面を見て固まってる雲母に、喜多村が声を掛けた。ほんの数秒のことなのに、雲母の体感では数十分。脳内妄想劇場を完結させるまでひとしきり楽しんだあと「いえ大丈夫です」などと、にこやかに答えたつもりだった。 「ハルちゃん、今さ俺が見てもどシコい顔なってるけど。なに、雅宗先輩何かあった?」 「いえあの、ちょっと設楽くんの件でですねメールが…」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇   設楽のマンションが老朽化で   立ち退きみたいなんです   とりあえずウチ来てもらう   よろしくねハルちゃん(ハート) ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「え立ち退きて…大丈夫か設楽…」 「…え、これハルさんは大丈夫なん?」 「僕、実はどうしたらいいか…」 そりゃそうよね。しんみりする二人。雅宗先輩の言ってることもわかるし設楽も結構大変なんだけど今、ちょっとハルちゃん、辛いんじゃないknt………あれ?なんかハルちゃん様子が違わない? 「…ああどうして仕掛けてこなかったんだろって…」 「なんて?」 「ビデオカメラ…」 【【 そっち !? 】】 「でもね考えてもみて下さい。まずは千弦くん」 「はヒ」 「…あなたの愛する鬼丸くんを、人外の輩がピーーしてる所を」 深い溜息。喜多村はこれ以上無いくらいの真剣な眼差しで虚空を仰いだ。目と眉ちっか。そしてなにやらブツブツ言いだした。 (えなんで人外なんハルさん)(安全策です) 「そして鬼丸くん」 「はヒ」 「あなたの(以下同文)」 おわかりいただけただろうか。そこらに出回る三流AVなんかとはワケが違う。己のためだけにカスタマイズされし極上の萌え。マイスゥィートダーリンのあられもない姿をですね存分に堪能できる訳なんですよ如何ともし難く(ノンブレス)。雲母の力説に首を縦に振るしかない面々。ただ喜多村はあまりに佐久間を好きすぎて、メンズエステのエステティシャンにさえ嫉妬する男。確かにこれは方向性を変えねば。次に雲母は放ったのは。 「では千弦くん、ウチの伊達さんに、鬼丸くんの方からピーーするシチュ。どうです?そそりませんか?」 ウ チ の 伊 達 さ ん に(オイイイ身内売りやがった)。確かに外の誰かが鬼丸に触れるのは許しがたい。だがしかし、鬼丸が襲われるのではなく「襲う」となるとしかも雅宗先輩を…ファッ…なんか百合の気配するそういや俺鬼丸がS系だと勃… 「…ンフ。わかっていただけたようですね」 喜多村と雲母は固い握手を交わした。端から見ればシュっとした極上イケメンがアルカイックスマイルで握手してるなんていう「いいね」5億回きそうな絵面な。でも内情は悲しいかなコレ。取り残された佐久間はそれでも、喜多村が人外の輩にピーーされてる所を想像しようと頑張った。頑張ったけど上手くいかなかった。何故なら。 あの性欲大魔神が「受」としてピーーされてる所など、想像するのも禁忌に決まっ………てか想像しただけで震撼やわバチ当たるわ命惜しいわ!!(佐久間←喜多村左側固定派) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 数日後の水曜。 午後から休みの喜多村は雲母の助手よろしく彼に同行。久しぶりに粋スーツ合わせの二人。雲母は設楽の住居の件で、そこの大家と面談し快く示談を取り付けた。ちゃんとお詫びも兼ね、弁護士に相談しようとしていたという。善良な方で良かった。雲母は胸を撫で下ろし、伊達に報告のメールを入れた。 設楽には伊達の家で心身共にリラックスして過ごして欲しい、勿論自分たちは全く邪魔だなんて思っていない。そのことを何としても分かって欲しかった。僕は愛しているものの側に寄り添いたい、それだけなんです。そんな雲母の気持ちを何も言わなくても汲んでくれる。雲母の「スパダリ」はそういう男だった。 「ハルちゃんは優しいな」 「…ありがとうございます、千弦くん」 だけどトウサツとか、ヘンタイ部分は健在なのな。なんてことを喜多村は考えながら、伊達と設楽が待つであろうあの家へ。玄関を抜けるとあちこちに荷物。なんでこんなとこにダンボール積んであるんだろ。そのうち足に引っかかったのは細い紐。そして小さな鈴の音…なにこれトラップ? 「…かかったな設楽!!!」 パチパチと身体に当たったのはおそらくBB弾。物陰から飛び出してきた伊達は、唖然とする喜多村の姿を見て驚いた。 「…あれえ!千弦なんでいんの!」 「伊達さん、いま玄関開いたじゃないですか」 奥まった廊下から現れた設楽は、喜多村と雲母に会釈する。どうやら家の中でサバゲーに興じていたらしい二人は、休戦休戦と言いながらダンボールなんかを片付け始めた。 「設楽の荷物片付けてたら、BB弾見つけたんよ!」 「ンフ。どっちが優勢だったんですか?」 「そりゃもうさ…」 繰り広げられる伊達と雲母のキャッキャウフフパラダイス。暫くその様子を嬉しそうに眺めていた設楽は台所へと向かった。その後を喜多村が続く。あ、今お茶淹れますんで座ってて下さい。すっかりこの家に馴染んでいる設楽に、喜多村は安心したように言った。 「…心配はしてなかったけど、よかったな設楽」 「全部いっぺんに片付けて貰えたし。助かったです」 「しばらくはここで3人か…正直どう?居づらい?」 「全然。二人とも優しくて」 そっか、良かった。喜多村はそれだけ言うと、電気ケトルに湯を沸かし始めた。ペアのマグカップ+もう1つ。今日はもう一つ追加。コーヒーをドリッパーに移し替えながら、設楽は喜多村にしか聞こえないくらい、小さな声で。 俺は波風を立てるつもりは毛頭無いし、NTRに関してはホント、全く全然心配無用です。 愛しているものの側に寄り添いたい、それだけなんです。 俺、も。 居間から聞こえてくる伊達と雲母の笑い声。湯気のたちこめるケトルの前で、設楽は目を細め、幸せそうに呟いた。
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