smashing! おれのだいすきのかくにん

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smashing! おれのだいすきのかくにん

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。 喜多村のぬか漬けは旨い。ぬか床はマメにかき混ぜているせいで傷まず、塩分も丁度良い塩梅。喜多村の手が離せないときは佐久間が、または時々やってくる伊達も一緒に、このぬか床を育てている。きゅうりや人参、茗荷なんかも入って、季節の野菜を味わえるお楽しみでもある。 今日も一日恙なく終了。雨の日は患畜が意外に少ない。先に二階に上がった喜多村はソファーで横になっていた。腕組みをして仮眠する癖。寝づらいだろうと聞けば、このほうが落ち着く、以前返ってきたのはそんな言葉。 佐久間は夕食の支度にキッチンに立つ。少し疲れているようで、あまり自覚のないときは、ガッツリ系でなく軽いものがいい。それでいてちゃんと腹にたまるもの。そういえばこの間、伊達が来た時に作り置きしててくれた麻婆豆腐用のタレ。豆腐入れて炒めて丼にしちゃおうか。佐久間は冷凍庫から保存用のパックを取り出す。 レンジに仕掛けて、温める前に喜多村を起こしに行く。肩を数度揺すっただけで喜多村は目を覚まし、すっきりしたー、とか言いながら佐久間の腕を引き寄せて緩く抱き締める。そのまましたいようにさせながら、佐久間は喜多村の腕の中で話を続ける。 「な千弦、今日辺りぬか漬け食べられるかな」 「…あ、そうだねそろそろ。鬼丸に食べて欲しいやつ入れてあるよ」 「え?なんか入ってた?」 「あるよあるよムフン。今から出そうか?」 喜多村は上機嫌で起き上がりキッチンへ向かう。佐久間はその後を付いていきながら、祖父の柚子丸の言葉を思い出していた。 ー 好きになった人の漬けた物食べたら、続くかどうかわかるよ ー 小さな頃は意味不明だったことが、どんどん花が開くように腑に落ちるようになって、ああ、このことだったか。その都度懐かしく蘇るあの笑顔。 「俺のイチ押し。これ食べてみて?」 喜多村が出してきたのは白くて丸くて…え?キノコ…マッシュルームだ!キノコをぬか漬けにするのは珍しくはないけど、育てたぬか床に菌糸突っ込んじゃうその勇気な。うずうずと楽しそうな喜多村の表情が、佐久間にとっては至福のそれで。 出されたマッシュルームぬか漬けのスライス、食べて、目を見開いて、熱く感想言い合う。 佐久間は喜多村に対しての認識を、何度も、何度も。 「好き」をこうして、再確認しているのだ。
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