smashing! ゆめおちて きみのてをとり

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smashing! ゆめおちて きみのてをとり

…金縛り…で始まると思ったよね。あ、俺は伊達雅宗くんです。こないだからねなんか、おかしな現象が起こってんのよ。説明しようと思ったけど昨日と一昨日のお話をざっとかいつまんで頂いて。結局俺が「○れられてる」結果になってたってことだけ覚えといてもらえたらそんで。え?今の俺?それはね。 絶賛金縛り中ですん。 …網代天井眺めながら寝てたはずなの。ウチの居間の。なのに目覚めたらここ、どうみても佐久間たちの家なんよね。俺よくこの位置で寝てるから覚えてる。そしたら身体動かないわ声出せなわ。いや困ったわこれ。 ウチとこのラブリー税理士(ハルち)とデカちんkセ友(しだら)に聞いた話によると、目覚めたら二人とも何らかの無機物に擬態→目の前で性的興奮を煽られ→結果俺に被害。んなんだか訳分かんないけども、今これ俺は、無機物なん?とりあえず金縛り解けないとわかんないかな。見上げると佐久間んちの天井、背中には佐久間んちの俺専用ローソファー(カッシーナ)の感触がする。てことはよ?俺だけ…生身ってこと?もしやヒト状態?やったあ動けるようになったらとんずらしたろ。壁の時計はまだ昼過ぎ。さっさとハルちゃんち帰って膝でナデナデしてもらうん。で設楽のカレー食べるの。 「あ、お疲れ千弦。今日は午後からゆっくりできるな」 (……ハ…) 「いまなんか持ってくるよ」 ま さ か の ヒ ト し か も 千 弦 急に金縛り解けた。解けたけど、俺はいま恐らくちぃたん。喜多村千弦くん。そっと両手で顔に触れてみる。は…これはほっぺ…すべすべ…で、そんで眉毛、目…睫毛睫毛睫毛。毛虫か。毛の虫感。ああこりゃちぃたんだわ。起き上がって色々確認…このちんk、ちぃたんだわ(確定) 「…チューハイ持ってきた。あとこれ、ハルさんがくれたシュークリーム、ガワがデニッシュになってるやつ」 「デニッシュに(え初耳)」 「すげえチューハイに合いそ…あれ?なんか声低い?…風邪かなあ」 俺のデコに触ってくるのは佐久間鬼丸。至近距離かわゆ。あらぬ緊張で固まってる俺に、佐久間は少し訝しげに首を傾げた。 「熱、ないみたいだけどな。チューハイやめとこうか?」 「それは呑む、し、食う」 「食うのか」 「うん」 おっしゃあ切り抜けた。一言二言ならボロ出んだろおっしゃあ。ちぃたんの身体ってのが気になるけど、もっかい寝たりしたら解けるよな?次目覚ましたらちゃんと日常空間だった、ってあの二人が言ってたから。ささ、呑も。そんで食っちゃおハルちゃのデニッシュー。俺まだ食ったことないやつ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「なんか今日変だな…千弦」 「そん…そうか?」 「やっぱり変だよ、ほんの2~3本でそんなヘロヘロになる?」 うん、やっぱチューハイはやめとけばよかったかな。このデニッシュ風シューうんまくて、そんでこの新製品のぶどうのチューハイの合うこと。キリッとしてようと頑張ってたのに上半身に力入んなくなってきたん。あれ?千弦てどんな感じなんだっけ普段? 「俺、横になるん…じゃなくて、横になる、よ」 「そうだな、それがいいかな」 ごろん、といつもの俺のローソファーの上。ああ気持ちい。このまま寝て起きたらきっと元に戻ってるよ。さて眠るか…って。あれ? 佐久間がいつのまにか俺の側にいる。ああ、このソファー低くて広々してるからな、一緒に寝そべりたいんかな。俺は少し場所を空けてやろうと身体をずらしかけた。そしたら。 「お前さ疲れてるんだよ。ちょっとじっとしてな」 佐久間が頭撫でてくれてる。大人んなって頭撫でてもらうの、思いの外すごい癒し効果あんのよ是非お試し下さい…って…アレ?なんで俺下スースー…佐久間が俺の(正確には千弦の)履いてたジョガーパンツみたいのを知らないうちにずり下げ…ア、そんなお前ちょっと! 「そこ」に触れる佐久間の唇。その舌が形なぞるように捉えてくる。確かに上手くはない。でも必死でこっちを悦くしようとするその頑張りが、堪らない気分にさせてくる。凄い、な佐久間。 俺の上に跨がろうとする佐久間の、俺の知らない、赤く艶めいた視線が。 俺ごと「千弦」を縛り付けて離さない。 逃げられ、ない。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「…さん、伊達さん」 「…は…」 「すごく魘されてましたよ?大丈夫ですか?」 …網代天井。あ戻った。戻れたん!よかったあ…両手で顔覆って深く溜息。俺の肩を揺すっていたらしい雲母ハルちゃんが心配そうにしている。いやにリアルだった。デニッシューは美味しかったけど。 もう少しで佐久間をやっちゃうとこだったん。いや危なかった。大丈夫夢あれは夢。俺のささやかな戒は破られてなんかいない。俺は肩口に置かれたハルちゃんの白い手に頬をすり寄せた。怖い夢でもご覧に?優しい声に微かに首を振って答える。 「伊達さん、今日はお土産があるんですよ」 「えお土産!嬉しいなになに?」 気を取り直した俺はハルちゃんに手を取って起こして貰って、ちゃぶ台の上に置かれたケーキボックスを開けた。 「これ初めてでしたね。お口に合うといいのですが」 その中には、さっき夢の中で佐久間に出して貰った、あのデニッシュ風のシュークリームが行儀良くそっと、並んでた。
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