私の失くし『者』

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 赤ちゃんを授かり、すくすく成長して。  そろそろ二人目が欲しいね、一人目は男の子だったから、次は女の子が欲しいね、でも男の子兄弟もいいなあ、なんて話が出始めた頃。  夫と息子は、ある日突然、姿を消した。  三歳の誕生日に買ってもらった三輪車に乗って、夫と散歩に出た、夏の終わりの夕暮れ。  週末も終わりを迎え、また忙しい月曜日が始まる、前日。  日曜日の夕方。  恒例のテレビ番組を時計がわりに聞きながら、私はてんぷらを揚げていた。  夫の好物だ。  大好物の玉葱のかき揚げが出来上がるころには、今やっている番組が終わり、夫と息子は帰ってくるだろう。  夫と子供が好きなアニメ番組が始まる頃に合わせて夕食の準備を整えるのは、日曜日の習慣だった。  てんぷらは揚げたてが一番だけど、いくつか種類を揚げるとなると、少し手間がかかる。  下ごしらえや揚げるタイミングを間違えると時間がかかってしまうし、かといって余裕を持たせすぎると、冷めてしまう。  二人が帰ってくる時間に出来上がるように、細心の注意を払って、私はキッチンで、てんぷら鍋に向かっていた。  その成果が出て、タイマー代わりの番組のエンドロールが流れるのと同時に、調理は終了した。  すでに食卓には、食器や箸も並べてあり、あとは、ご飯を盛りつけて、てんぷらを盛り付けた大皿を置くだけ、という状態。  数分の余り時間に、使い終わった調理道具を洗って片付け、私はしゃもじを片手に、待機していた。
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