私の失くし『者』

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 日が暮れて。  迎えに行った公園に、ぽつんと残されていた、三輪車。  ピカピカの、まだ新しい、黄色い三輪車。  夫のお手製のネームタグが、グリップの根元に揺れていた。  ……人影はまばらだったけれど、無人ではなかった。  でも、私の大切な二人の姿は、どこにもなかった。  冷蔵庫で、誰も食べなかったてんぷらは、腐臭を放つようになっていた。  私の代わりに、気が付いた母が処分してくれた。  炊飯ジャーのご飯も、鍋のお味噌汁も。  食べてくれる人が帰ってこないまま、捨てられた。  三ヶ月が過ぎて、半年過ぎて……。  いまだ、手がかり一つない二人の行方。  誰かが車ではねて、事故を隠蔽するために二人の死体を持ち去ったのだ、とか。  見てはならないものを見て、連れ去られ、口封じされたのだ、とか。  聞きたくもないのに、耳に入ってきた噂話。  やさしかったはずの、周囲の人々が、夫と息子の死をほのめかす。
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