宝石

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 展示室には翡翠とそれ以外の岩石や化石も陳列されていた。  やはり、翡翠は別格の位置にある。壁面いっぱいに翡翠のみ並べられた翡翠の部屋があった。  手のりサイズから持ちあげられなさそうな巨石、それから白っぽいものや黒っぽいものなどなど……さまざまな原石があり、父は興味深げに観察した。  たしかに、まったく同じ個体はない。手のなかにある宝石と同じものもなかった。 「なぁ龍之介、?」  わき起こった気持ちを伝えようとしたら、息子の姿が隣になく、彼は辺りを見回した。  一方、龍之介は他の岩石を眺めていた。翡翠など見たくなかったからだったが、カラフルなきらめく石々にみとれつつあった。そして、そのなかには、紙に書かれた文字と同一の記載「石英」もあったのである。 「こんなにきれいな石の仲間なんだね」  近寄ってきた父の気配を感じた龍之介は、つかんだ小石に熱い眼差しを向けながら、吐息まじりにぶやいた。  父は息子の前にあるケースをのぞくと、息をのんだ。そこには、ガラスのように輝く石、水晶があったのだ。  息子が持つ石と同じく、「石英」と表記され、水晶とも並記されていた。 「ああ。これも立派な宝石だな」 「じゃあ、ボクもお宝を手にいれられたんだね」 「そうだな。ニセモノなんかじゃない。ただ、翡翠と区別するためにニセモノ扱いしてただけだ」  息子はうれしそうに小石を掲げて見つめた。間接照明の下で息子の目と小さな宝石がきらきら光る。 「よかったな。大事に持って帰ろうか。龍之介の石を。お父さんの石も」 「え。お父さんの石は元をとる――」 「いろんな翡翠と見比べていたら、いとおしくなった」  気まずくほおをかいて、蝦蟇口を開いた。 「いっしょに持って帰ろう」  ふたつの石は再び蝦蟇口のなかでいっしょになった。  そのとき、地響きのような効果音が出ていることに、親子は気づいた。なんだろう。大きな子どもと小さな子どもは、音のするほうへと急いだ。  スクリーンのなかで、日本列島ができていくところだった。やがて、フォッサマグナもできて、静岡から糸魚川のラインも浮きあがった。 「あの線、ちょっとうねっていて竜みたいだね」 「てことは、竜とともに俺たちはお宝にたどり着いたんだ」 「世界が救われるかな」 「少しはよくなるかもな」  白緑石と緑石が救われ喜びあっていることを、この親子が知ることはない。ふたりは無邪気に笑いながら、受付の前に戻ってきた。  息子は鑑定のおじさんを発見すると、小走りで話しかけにいった。 「おじさん、本当にこの石はいい石だったんだね。だけどボクは、その……」 「わかってくれて、ありがとう。イッセキにしとってね」 「うん。ありがとうございました」  顔をほころばす息子と学芸員。片や父は、ある言葉が気になっていた。 「あの、すみません。イッセキにするって?」 「ああ。大切にする、ということです」 「なるほど。わかりました」  今度は心からそう言って、父は息子とふたつの宝石とともに博物館を出た。  そのとき外は、雨がすでにやんでいて、地球誕生以前からある恒星からの光が優しく降り注いでいた。  その後、ふたつの宝石は――ヒーローフィギュアの横で輝きあった。 了
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