ポインセチアと魔法使い

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 ポインセチアの花って真ん中の黄色い実のようなところで、実は赤いところは花じゃなくて葉っぱの一種って知ってました?  じゃあ、昔は赤いところはなくて、ちっちゃい実のような花と緑の葉っぱだけだったっていうのは?……  知らない人はわたしのお話を聴いて、クリスマスに子どもたちに教えてあげてください。  昔々遠い北の国で、クリスマスについての会議が開かれていました。  もちろん議長はサンタクロースで、議題は『花のあるクリスマス』でした。  クリスマスの何週間か前に呼び集められた花はみんな寒さにぶるぶるふるえていました。 「……そこで、クリスマスにも花がほしいというわけなんじゃ」 「わたしでは不満なんですか?」  もみの木が言います。 「不満と言うわけじゃないが、さびしいじゃないか」 「それが不満ってことじゃないですか。じゃあ、お好きな花と仲良くすればいいでしょ」  とげとげしい声でそう言うと、もみの木は金色の玉と綿の雪といっしょに去って行きました。  サンタクロースはもみの木を追いかけもしないで言います。 「誰かクリスマスに咲いてくれる花はないか?」  誰も返事しません。 「いつも美しいバラよ。おまえはどうだ?」 「あたしは霜にだって弱いんですよ? それが雪の降る季節だなんて」  もみの木よりもっととげとげしい声で怒ります。 「いつも明るいひまわりよ。……おまえが咲いてくれたらさぞ楽しいだろう」 「あたしはお日様といつもいっしょなんです。クリスマスなんて、お日様はめったに出て来ないじゃないですか」  ひまわりは黄色い声を張り上げて断ります。 「いつもかわいいチューリップよ。おまえならクリスマスを待ち望んでいる子どもたちもよろこぶぞ」 「最近肩がこってて、あたしダメなんです」  長い首をゆらしながら嫌がります。  それから、ベゴニアも蘭もコスモスもパンジーも、みんななんのかんのと言って、サンタクロースのお願いを聞いてくれませんでした。  サンタクロースはため息をついて、会議の解散を告げ、とぼとぼ歩いて家路につきます。トナカイのそりだけがついて行きました。  花たちはほっとして、陰口を言いながら帰り始めます。 「サンタさんじゃなければ考えてもいいけど」 「そうよね。おじいさんだもん」 「そうそう、それに太ってるし」 「雪の王子様なんかだったら?」 「それなら寒くたってへっちゃら」  華やかな笑い声が響きます。  サンタクロースは、自分の耳がまだそんなに遠くなっていないのを悲しく思いました。すると後から小さな声が聞えます。 「サンタクロースさん、あたしでよかったら……」 「うん? おまえさんは?」 「ポインセチアです」 「ありがとう。でも、おまえさんは花なのかい?」 「ええ、とても小さいんですけど」 「……ありがとう。でも、いいんだよ。大きくなったらお願いするから」  ポインセチアは、さっき声をかけられたきれいな花たちに比べ、自分がみすぼらしいのを恥ずかしく思いました。  でも、それ以上に子どもたちのために働いているサンタクロースのお役に立てないことがくやしかったんです。  どうしても大きな花がほしくていろいろ考えた末、ポインセチアは深い深い谷の奥に住む魔法使いのおばあさんを訪ねることにしました。 どんな願いでもかなえることができる、でもとっても意地悪なおばあさんだと聞いていました。  そこに行くには7つの高い山を越え、7つの広い川を渡らなくてはならなかったのです。  ポインセチアはとても長くて苦しい冒険の旅をしました。  それをご紹介したいんですけど、お話ししているうちにクリスマスは終わってしまいます。  そこで結論だけ言いましょう。ようやく魔法使いの住む洞窟にたどりつくことができました。暗い洞窟におそるおそる入って行きます。 「おや。ひさしぶりのお客さんだね。700年ぶりかね」  洞窟の奥の奥からしゃがれた声が響いてきます。 「おばあさん、あたしに大きな花をください」 「お安い御用だよ。どんな色がいいんだね?」 「えっと。……真っ赤なのが」  噂と違ってとても親切なおばあさんの言葉にうれしくなったポインセチアは、バラの美しさを思い浮かべながら言いました。 「ああ、いいよ。で、いつ咲くんだね?」 「クリスマスの頃です」 「え? そいつは無理だよ。春にしなさい」  その言葉が終わらないうちに洞窟の外には春がやってきました。花が咲き乱れ、小鳥たちが愛のささやきを交わします。 「春ではダメなんです」 「じゃあ、夏がいいよ」  その言葉が終わらないうちに洞窟の外には夏がやってきました。木々に葉が繁り、セミたちがせわしなく歌を歌います。 「夏でもダメなんです」 「夏も嫌いなのかい? じゃあ秋だね」  その言葉が終わらないうちに洞窟の外には秋がやってきました。木の葉が色づき、リスたちが木の実を探して駆け回ります。 「どうしてもクリスマスなんです。サンタクロースさんのために」 「そいつは無理だよ。冬に大きな花は咲かないよ。凍ってしまう」  その言葉が終わらないうちに洞窟の外には冬がやってきました。  一面真っ白な雪で覆われ、樹氷の間を吹雪が通り抜けていきます。  魔法使いのおばあさんはこの頑固な子も寒さのおそろしさを知れば引き下がるだろうと、背中を向けてあやしげなお鍋をかき回します。  ポインセチアはぶるぶるふるえながら、それでも我慢していました。  吹雪は7日間続き、ようやくやみました。  おばあさんは、すっかり霜と雪にやられて枯れそうになっているポインセチアを見て、ため息をつきました。 「よくわかっただろう? 冬は花どころか葉っぱも落として、じっと耐えるものなんだよ。魔法だって神様が決めたことを変えられやしない」 「わかっています。でも、サンタクロースさんが」 「またそいつのことかい。そんなわがままを聞くことはないんだが。……」  しばらく考えにふけっていた魔法使いのおばあさんは、ぴいぃっと甲高い口笛を鳴らしました。  すると真っ白なふくろうが音もなく飛んできて、魔法使いのおばあさんの肩に止まりました。おばあさんが何やらささやくのに軽くうなずくと、それからまた音もなく高い山よりもっと高く飛んでいきました。  次の朝、ふくろうが飛んでくるのが見えたかと思うと、それに続いてシャンシャンと鈴の音が聞えてきました。  トナカイの白い息が見えて、サンタクロースのそりがやって来ました。 「やれやれ、年寄りをこんな遠くまで。1年でいちばん忙しい時期に何の用だね?」  サンタクロースは迷惑そうに言います。 「何の用じゃないよ。あんたがわがままを言うから、見なよ。かわいそうじゃないか」 「おや、いつぞやの。ポインセチアとか言ったかな。……どうした? 枯れそうじゃないか」  ポインセチアはサンタクロースに微笑みますが、返事もできません。 「それもこれもあんたがクリスマスに花がほしいって言ったからだろ」  魔法使いのおばあさんに叱られて、サンタクロースはさすがにしょんぼりしました。  トナカイも下を向いています。  ポインセチアも何だか申し訳ないような気がしました。 「おばあさん、ありがとう。でも、あたしもういいんです」 「いやあたしが乗り出した以上、そうはいかないよ。……あんた、ずいぶんあったかそうなのを着てるね」  サンタクロースの服に目を遣ります。  ポインセチアにはその灰色の瞳に光が射したように感じられました。 「そりゃそうさ。寒い季節に働くからって神様が特別に作ってくださったんだ」 「ふうん。そうかい。じゃあ、ごりやくがありそうだ」  その言葉が終わらないうちにサンタクロースの真っ赤な上着の裾がはらはらと切れて、ポインセチアにくっつきました。  するとさすがは神様の特別製、見る見るポインセチアは生気を取り戻しました。 「わっ。何をするんじゃ。切ってしまうなんて」 「だいじょうぶだよ、それくらい。……それより見てごらん」  鮮やかな赤が映えるポインセチアを見て、サンタクロースはびっくりしました。 「おほぉ。こりゃ、見違えた。立派な花だ。いや、花よりも美しい。ぜひともクリスマスを彩っておくれ」  それを聞いてポインセチアはますます頬を赤らめました。  ……どうです? ウソだろって? じゃあ、今度サンタクロースに会ったら、上着の後ろの裾を見てください。ちょっとだけ短いですから。
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