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その後も身動きできずにいるブレードの前で、歌は歌われ続け、たまにトークが混ざり、プレアーと歓声をあげられたアイドルは、会場の隅にまで移動してすべてのファンの近くを通り、何曲も歌い、踊り、ファンサをして、そして楽しそうに笑った。
それはまるで。
そう、それはまるで。
光、の、ような。
一筋差し込むと言うより、一太刀切り裂く、そんな感覚に似ていた。
まっすぐな光が、暗闇を、罪を、過去を、切り裂いて、切り拓いて、飛び込んでくる。
胸を貫く。
心臓を穿つ。
傷を消し去る。
灰が強風にさらわれるように綺麗さっぱり、あんなに深かった傷さえも、あまりに力強いその歌声がかっ拐っていく。
吹き飛ばされる。
体が、はるか遠くまで、いよく吹き飛ばされたような、どこか知らない場所にいきなり放り出されたような。
今まで知らなかった感覚が。
初めて襲う振動が。
胸を揺らす。
心臓を穿つ。
光が疾走 る。
魂を撃つ。
その歌声は、世界を揺らす。
その歌声で、世界が揺らぐ。
胸を穿つ。
過去を吹き飛ばす。
足が震える。
音が疾風る。
魂を超える。
世界が変わる。
見える世界が、聞こえる音が、乾いた味が、モノトーンだった匂いが、
今まで感じていたものすらすべて。
魂が叫ぶ。
心臓が求める。
胸が熱く、熱く、灼熱に浸って。
涙が浮かぶ。
心が叫ぶ。
自分が泣いていた。
俺は泣いて。
光に呼ばれて。
手を伸ばす。
足を踏ん張る。
霞む視界に、溺れる世界に、
叫んだ。
世界がひっくり返る。
気づけば近くにいた魔物の手からペンライトを奪い取り、全力で振り上げていた。
遠くのステージで、プレアーが駆け回り、手を伸ばし、指を指し、ステップを踏み、荒い息を混ぜて歌を放つ。
「そう それが 私のいる理由だ
君が 君が どんなに汚れていたって
かまいやしないから
私の光で灼き尽くすよ!」
振り上げた腕を伸ばして、まっすぐに観客席を指し、歌が終わった。
スピーカーから溢れる呼吸すらかき消す勢いで、静かな熱狂がその場に満ちる。
それに合わせて、ブレードも力いっぱい、喉が割れそうなほどに叫び声を上げた。
必死に、全力で。
自分の推しの名前を呼んだ。
この日から、勇者ブレードは魔王の娘プレアーを全力で愛し――
全力の推し活が、始まったのである。
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