プロローグ 光のような君の歌

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「さあ蘇れ君のハート!  今どっくんどっくん高鳴るその鼓動は嘘じゃないでしょ?  生きてるんだ 誰も彼も  君も私も 勇者も魔物も魔王もその娘もみんな!  さあ生き返れ私のハート!  まだまだこんなもんじゃないから!  もっともっともっと君の魂を今打ち鳴らすよ!」  ペンライトが揺れる。  魔物たちが叫ぶ。  そして勇者は、ただ、ただ、その場に立ち尽くしていた。 「汚れてたって醜たって  そんな君が私にとっては  大事な 大事な  愛してくれる存在のひとり  そこにいてくれるだけでいい  生きてくれたならそれがいい  君が私を好きでいくれるって  その真実だけで嬉しいから……」  息をするような、それは歌というより、告白のようだった。  再び胸の前で手を握り込み、少女は一筋の涙を流しながら、マイクを持つ手に力を込める。 「そう 君が 私のこと  好きになってくれた  それだけでいい  その真実が、そう  涙ぐんじゃうほど嬉しいから  生きてるんだ 私は  生きてるんだよ君は、そうでしょ?  誰がなんといったって  この一瞬みんな輝いてるんだ  死を望まれたのなら  私がそれを打ち壊して  君が 生きて 行きられる世界を創ろう!」  感情が弾ける。  同時にステージの真上でも光が弾け、虹色の煌めく粒が会場に降り注いだ。 「私だって 君だって  生きてるんだよ そうだよ!  だから私はもう死なない!  そして……君も」  伴奏が途切れ、少女が乱れた前髪の向こうで、目を細めて微笑(わら)っている。  かすかにリズムを乗せて、けれど普通に話しているような穏やかな調子で、彼女は最後の言葉を紡いだ。 「生きてよ 私と一緒に。」  今度こそ、音が消えた。  世界の全てから、ブレードと、プレアー以外いなくて、ただ真っ白を背景に、一人のアイドルが、心から嬉しそうに笑って、ブレードから遠く離れた場所に立っていた。  何かが、変わる音がした。  世界が。あるいは、その見え方が。  もしくは世界から、絶えず押し付けられていたように感じていた、重く苦しい荷物が。  悪夢で何度も聞こえていた、自分を責め、傷つけ、えぐる言葉が。  深く息を吸って吐いた、その瞬間、自分が生まれて初めて呼吸したような気がした。  ああ――  息を呑む。呼吸する。  胸の奥深くから、湧き上がってくる。 「ありがとうございましたーっ!」  細い腕を振り、声を張り上げる少女を見て。  あふれだして止まらない、この感覚は。  この感情を、人は、なんと、呼んで。 「『生きてる宣言』でした! みんな生まれてきてくれてありがとぉー!」 「うおおおおお!」 「プレアー様あああああああ!」 「やばい、大好き愛してる」 「生まれてきてよかった……っ」 「一生推す……」  隣から涙声で聴こえたその言葉に、ブレードは目を見開いた。  推す。  そうか。  これが、「推す」ってことで、「推したい」って感情か。  こういう存在が、「推し」なんだ。  それは恋ではなく、でも巨大な愛。  それは一度も話したことがなく、でも心を救う存在。  人生で初めての感情で、  人生で初めての存在だった。
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