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02.「俺と取り引きしませんか?」
*
お酒の失敗をした翌日、朝から机の前で次の作品を何にするか考えて、ノートにいろいろと思い浮かんだ案を殴り書きしている途中。
──ピコンッ
気が緩むような音が耳に入り込んで、そこで集中力が途絶えた。
「もう〜……こんな朝に誰なのよ……」
シャープペンを手放して、放置していたスマホを掴んで画面を開けば、その送り人は母親からで。
【漫画家になるって言って家を出て早六年だけど、調子はどうなの? このままだらだらと夢を追いかけていても幸せになれないのなら、こっち帰って来て、ちゃんとした仕事に就いてお見合いでもしてみたら?】
メッセージの長さに思わず、途中で読むのを投げ出してしまいそうだった。
「お母さんも相変わらずだなぁ、もう……」
確かに、私は大学の三年目に入って応募した漫画でデビューして、中途半端は嫌だとそのまま大学を辞めて、上京してそれから早くも六年が過ぎているけれど。
なかなかヒット作品を描くことができなくて、読み切り集を二冊ほど、そして文庫本の表紙や挿絵等で何とか食いつないでいるから、人気漫画家とは程遠い。
だけど、私は漫画家という仕事が好きでやっているわけだから、それをとやかく言うのはやめてほしい。
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