02.「俺と取り引きしませんか?」

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「そういえば、漫画家として活動してるって言ってましたよね。高野樹穂は、ペンネームなんだーって」 漫画家というワードに驚いた私は、え、と声をもらしながら、掴んでいた紙袋から力が抜けてバサッと床に落ちる。 「どうしたんですか?」 「だだだ、だって…ま、漫画家って……」 ああ、返事をしながら床に落ちた紙袋を拾い上げて底を軽く叩(はた)いたあと、はい、とまた手渡されて。 「高野さんが自分で言ってましたよ。酔った勢いだったと思いますけど」 「嘘…でしょ?」 嘘であってほしい、と願っても。「いえ、ほんとです」とニコリと微笑んで。 「俺、ちゃんとこの耳で聞きましたから」 「……ほんとに?」 「ええ、ほんとです。なんならこの間話した内容全部リピートしましょうか? 俺、すごく記憶力がいいんです。まあ、何の特技にもなりませんが」 私がお酒で酔っていて一切覚えていない記憶を全て覚えているの?! 「……私、何か他に変なこと言ってない?」 「気になります?」 いやあの、質問したのは私の方なんですけど。 「……そりゃあ、ちょこっとは……」 なんて、嘘で。そんなのかなり気になるに決まってるじゃないですか! だって、自分が弱っているときにお酒を飲んだら何を言い出すか分からないというのに。それを見ず知らずの他人にぶちまけてしまっていたなんて……! しかも、まさかのホテルに泊まってるし。
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