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「まあ、大抵言ってたのは仕事のことでしたよ」
「え、仕事……?!」
それってまさか漫画家のこと、だよね……?
「なんでも、キュンとした漫画が全然描けないとか、恋愛したことないからそもそも主人公の気持ちになってストーリーを進められないとか。手を繋いだこともなければキスも……」
淡々と告げられる言葉に驚いて「──ちょっとストップ!」慌てて遮った私は、赤面もの。だってそれ以上は、まずい。
「どうしたんですか?」
それなのに平然とした表情で、ん?と首を傾げるから。「ちょっと来て!」彼の腕を掴むと、勢いよく玄関の中へと引っ張った。
「あのさぁ……っ!」
怒りをぶちまけようと思ったけれど、あまりの近さに思わず、どきっ、と胸を鳴らす。そのせいで言葉はのどの奥へと下がっていく。
ちょっと私、なんでこんなことで緊張するのよ。私が恋愛経験ゼロだから?
目の前の彼がかなりかっこいいから?
「あのー」
不意に聞こえた声にビクッとして、恐る恐る顔を上げると。
「もしかして俺、誘われてます?」
「全っ然違うから!!」
間髪入れずに否定するけれど、この状況を理解してさすがにまずいと瞬時に思う。
一度面識はあるとはいえ、ほぼ初対面の彼を私が強引に部屋の中に連れ込んだのだから。彼が、そんな誤解をしてもおかしくはない。
けれど、そんな誤解はされたくないので。
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