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「そうですよね」ふいに、落ちた声のあと、パッと手を離される。
消えた温もりがなんだか切なく感じて、一気に身体が冷えた気がした。
もう、帰っちゃうのかな。
あーあ。なんか、もったいないことしちゃったのかな、なんてバカげたことを思っていた。
そう思っていた矢先、
「でも俺、思うんです」
矢継ぎ早に現れた言葉に、え、と困惑しながら顔をあげると。
「高野さんみたいに自分の好きなことに真っ直ぐ頑張ってる人って、そう簡単にはいない。だからこそ、すごいなって。かっこいいなって。自分のやりたいこと見つけて、周りに何言われても諦めなくて。そのパワーみたいなものが俺にはないから……」
まくし立てられた言葉は、徐々に力を無くしてゆくように、最後の部分は霞(かす)んで消えてしまいそうなほど小さくて。
何か言ってあげたい。返してあげたい。胸を締めつけるようなものを感じた、のに、何も言葉が出てこなくて。
「だから」代わりに落ちてきた言葉は、
「高野さんが羨ましいんです。自分の世界を生きているから」
私のどん底の、暗くて深い灰色みたいな世界を。きみは羨ましいと言った。
瞬間、目の前がぱあっと弾けたような気がした。
「城戸くんには、そう見えてるの……?」
気がつけばそんなことを口にしていて、私の問いに、はい、と頷いた彼は口元を緩めて。
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