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「これ以上、何か言われたら私、どきどきしちゃうから……」
城戸くんにとって“可愛い”とか“尊敬してる”とか言われ慣れた言葉かもしれないけれど、私にとってそれは違う。
すごく最上級の褒め言葉のようなものだから。
「ほんとに慣れてないの。そんなふうに言われること」
ずっと自分のことをダメなやつだと思って過ごしてきた。
それなのに彼は、なんの躊躇いもなく私を動揺させるから。
ふいに、両手を掴まれてどきっと緊張していると「じゃあ」口元が解放された彼の口から言葉が落ちてくる。
「俺と取り引きしませんか?」
人懐っこい笑顔を浮かべながら、とんでもないことを提案するから、え、と困惑する。
「高野さんは、恋愛経験がなくて恋がどういうものなのかもいまいち分からない。だから、漫画もいいものが描けない、ですよね?」
それを言葉にされると恥ずかしくて、
「いやっ、まあ、そう…だけど……」
言葉を細めると、だったら、とニイッと顔を緩めた彼は。
「俺が恋愛を教える──、ってのは、どうですか?」
告げられた言葉に困惑して「……えっ?」と思考回路が停止する。
「そしたら恋愛のどきどきも体験できて、いい漫画が描けるかもしれないじゃないですか」
……いや、確かにそうかもしれないけれど。
「でも、なんで?」
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