02.「俺と取り引きしませんか?」

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すると「あーそっかぁ」ポンッと手を叩いた彼は、 「村井さんあのときかなり酔ってましたもんね。覚えてなくて仕方ないです」 「え?」 酔ってたって、担当さんと別れたあとのこと? そういえば確かに何も思い出せないけれど。 「私あのとき何か言ってたの……?」 気になるけれど聞くのが怖くて、恐る恐る尋ねると「言ってましたよ」ケロッと答えて、 「漫画が好きだから漫画家になれてほんとに嬉しいの。自分が目指してようやくスタートラインに立てたのに、そこで投げ出すのはしたくない。だから、一度始めたことは、最後までやり通す、って。──そう言ってましたよ」 淡々と告げられる言葉は、どれも自分のものではないような気がした。 それでも私は、 「……ほんとに、そう言ったの?」 疑いたくなってしまうのは当然のことで。 けれど、彼は「ええ、言ってましたよ」なんの躊躇いもなく答えたあと、だから、と続けると、 「一度約束したことは、ちゃんと最後までやり通しましょうね?」 可愛らしく首を傾げるポーズをするけれど、直訳すると、それは『約束したからには逃げないでくださいね』と、まるで脅しまがいな言葉にしか聞こえなくて。 「………はい」 なんだか私は、とんでもない年下男子と取り引きをしてしまったようです。
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