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すると「あーそっかぁ」ポンッと手を叩いた彼は、
「村井さんあのときかなり酔ってましたもんね。覚えてなくて仕方ないです」
「え?」
酔ってたって、担当さんと別れたあとのこと?
そういえば確かに何も思い出せないけれど。
「私あのとき何か言ってたの……?」
気になるけれど聞くのが怖くて、恐る恐る尋ねると「言ってましたよ」ケロッと答えて、
「漫画が好きだから漫画家になれてほんとに嬉しいの。自分が目指してようやくスタートラインに立てたのに、そこで投げ出すのはしたくない。だから、一度始めたことは、最後までやり通す、って。──そう言ってましたよ」
淡々と告げられる言葉は、どれも自分のものではないような気がした。
それでも私は、
「……ほんとに、そう言ったの?」
疑いたくなってしまうのは当然のことで。
けれど、彼は「ええ、言ってましたよ」なんの躊躇いもなく答えたあと、だから、と続けると、
「一度約束したことは、ちゃんと最後までやり通しましょうね?」
可愛らしく首を傾げるポーズをするけれど、直訳すると、それは『約束したからには逃げないでくださいね』と、まるで脅しまがいな言葉にしか聞こえなくて。
「………はい」
なんだか私は、とんでもない年下男子と取り引きをしてしまったようです。
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