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その視線があまりにも真っ直ぐすぎて、緊張を誤魔化すように下唇を噛んでいると、
「でも、確かにこの前のお姉さんですよね? 居酒屋でかなり酔ってた」
突拍子もないワードが飛び出てきて、え、と一瞬拍子抜けしたけれど。居酒屋、という単語一つで“あの日”の記憶が手繰り寄せられて、一気に点と点が繋がった。
「……もしかして、ホテルのときの?」
思わず目の前の彼に指をさすと、そうです、とニコリと微笑んで。
「あのときの城戸です」
ホテル、なんて聞けばいかがわしい事を妄想しそうだけれど。
彼とは、何もないと信じたいし。
そもそも私たち、
「……あのときは自己紹介なんてしてなかったですよね?」
「いえ、居酒屋でしましたよ。でも、高野さんはかなり酔ってたから覚えてないと思いますけどね」
「え?」
……ちょっと待って。
私も自己紹介したの?
しかも、
「……私、高野って言ったんですか?」
「はい。言ってましたよ。高野樹穂って」
名前を聞いた途端、最悪だ、と頭を抱えて項垂れる。
だってそれは、
「……ほんとの名前じゃない」
高野樹穂とは本名から、“樹穂”だけを取って考えたありきたりなペンネーム。
けれど、ほんとのことを説明するわけにもいかず、口ごもっていると「ああ!」何かを思い出したように手をポンッと叩く。
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