02.「俺と取り引きしませんか?」

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その視線があまりにも真っ直ぐすぎて、緊張を誤魔化すように下唇を噛んでいると、 「でも、確かにこの前のお姉さんですよね? 居酒屋でかなり酔ってた」 突拍子もないワードが飛び出てきて、え、と一瞬拍子抜けしたけれど。居酒屋、という単語一つで“あの日”の記憶が手繰り寄せられて、一気に点と点が繋がった。 「……もしかして、ホテルのときの?」 思わず目の前の彼に指をさすと、そうです、とニコリと微笑んで。 「あのときの城戸です」 ホテル、なんて聞けばいかがわしい事を妄想しそうだけれど。 彼とは、何もないと信じたいし。 そもそも私たち、 「……あのときは自己紹介なんてしてなかったですよね?」 「いえ、居酒屋でしましたよ。でも、高野さんはかなり酔ってたから覚えてないと思いますけどね」 「え?」 ……ちょっと待って。 私も自己紹介したの? しかも、 「……私、高野って言ったんですか?」 「はい。言ってましたよ。高野樹穂って」 名前を聞いた途端、最悪だ、と頭を抱えて項垂れる。 だってそれは、 「……ほんとの名前じゃない」 高野樹穂とは本名から、“樹穂”だけを取って考えたありきたりなペンネーム。 けれど、ほんとのことを説明するわけにもいかず、口ごもっていると「ああ!」何かを思い出したように手をポンッと叩く。
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