ストーカー被害

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ストーカー被害

僕には「すみれ」と名の彼女がいる。 自分で言うのも変かもしれないが、すみれはとても美人だ。 彼女とすれ違った男性の10人に8人は「美人」だと言い、振り返るだろう。 そんな彼女と付き合う事になったきっかけは、少し変わっている。 彼女は軽いストーカーを受けていた。 僕は友達が開催した合コンで彼女と知り合い、何度か彼女と連絡をしている時に、実はストーカー行為を受けている事を相談してくれた。 彼女はアパートの2階に一人暮らしをしていて、ストーカ行為を受けているが気丈に振る舞う彼女を見て、僕はなんとなく不安になり助けようとしていた。 ストーカーの相手は彼女が住んでいるアパートの大家の息子で、見た目は30代後半ぐらいらしい。 ストーカーの内容は、気持ちの悪い手紙を彼女のポストに入れていることだ。 そして手紙の内容はこのようなものだ。 「いつもキレイですね」 「今日のお化粧はいつもよりもしっかり目でしたね」 などはまだ良い方だが 「昨日はお風呂が遅かったようですね。お疲れ様です。いつもシャワーの音を聞いています」 「燃える日のゴミ袋の中にプラスチックゴミが含まれていました。お仕事で忙しいでしょうが、分別は大切ですよ」 などと、気持ち悪くて怖いと思える内容も記されてあった。 常識のある人からしたら、こんな事をしたら彼女から嫌われるだけだと思うが、ストーカーの心理は分からない。 さらに、深夜1時頃に部屋にノックしてくることもあったようだ。 大家の息子なのでマスターキーも持っているだろうから、なおさら怖い。 僕の家から彼女の家まアパートまでは、車で10分程度だったので、何時だろうとすぐに駆けつけることが出来た。 彼女の家に行く時はストーカーに会わないかと、いつも怖くてドキドキして、もし大家の息子と鉢合わせた時は「襲われたらどうしよう、すぐに警察に言う事になるのかな」などと大きな不安があった。 さらに彼女が言うには、大家の息子は「かなり体格の大きな人」らしい。 それでも、彼女がヘルプを出した時はすぐに向かい、安心させてあげたのだ。 そして、いつしか彼女と付き合う事になった。 だが、それからも大家の息子のストーカーは続いたので、僕は 「別のアパートに引っ越そうよ。なんなら僕も一緒に」 と提案したが、彼女は今のアパートの安さと場所が気に入っているようで断られた。 仕方無いので、実家暮らしだった僕が彼女のアパートに引っ越すことにした。 そろそろ実家を出て一人暮らししたかったし、丁度良いタイミングかもしれない。 実家からも10分程度の場所なので、ほとんど荷物は持って行かなかった。 アパートは全て代理店の業者が対応してくれたため、大家と息子には会えなかった。 僕はちょうど彼女の部屋の真下になる部屋のカギを受け取り、彼女とほぼ同棲の暮らしが始まった。 僕が彼女のアパートに住んでからも、時々手紙は入っていたし、深夜にノックする事はあったそうだが、いつも、僕が外出している時に犯行が繰り返されていた。 僕は交替制の仕事で夜勤が多かったため、頻繁に夜の外出があった。 警察に手紙を持って行ってストーカー行為を相談した事もあったが、案の定「犯行現場を押さえるまで」警察は動けないらしい。 見回り区域に追加するとは言ってくれたが、深夜の犯行では全く意味が無かった。 僕は思い切って大家に問い詰めることにした。 しかし、何度インターフォンを鳴らしても大家は出てこない。 毎週1回来る、生協coopの発泡スチロールの中身は無くなっているので、皆が寝静まった時にでも回収しているのかもしれない。 だから僕は一週間の会社の休みを利用して、毎晩、見張る事にした。 日中になるべく長く昼寝をして、夜22時から朝まで、玄関で静かにして耳を澄ましておく。 大家の部屋から彼女の部屋まで行くためには、必ず僕の部屋の前を通る。 歩く音がしたらドアスコープから見て、大家の息子であろう人がいれば問い詰めるつもりだ。 初日、大家の息子は姿を現さない。 二日目も姿を現さない。 そして三日目、四日目と、何も変化が無くただただ静かで暗い夜を一人で過ごした。 そして気がついた事だが、真上の彼女の部屋からシャワー音が聞こえる。 毎日連絡を取っていて、お風呂に行ってくるね、と連絡があった後にシャワー音が聞こえるので、間違いないだろう。 大家の息子はこの音を聞いてあんな気持ちの悪い手紙を書いていたんだろう。 だんだん大家の息子に対する怒りも溢れてきた。 そして五日目、疲れも出てきた深夜一時頃、ウトウトしかけた僕がハッと目を覚ます。 かなり体重がある大きな足音だった。 大家の息子は「体格の大きな人」であり、僕の心臓は激しく高鳴った。 すぐにドアスコープから見て、確信した。 「こいつが大家の息子か!」 そう思って玄関のドアを開け、飛びかかった。 「お前がストーカーの犯人だろ!」 「な、なんだお前は!」 「この手紙を出したのはお前だろ!分かっているんだよ!さぁ今から警察に行くぞ!」 僕は手紙を大家の息子に投げつけて怒鳴った。 「なんだよそりゃ!俺は夜の散歩だよ!」 そんな言い訳は聞かずに僕は急いで警察に電話した。 10分程度で駆けつけてくれた警察と、大家の息子も一緒に警察署に行く事になった。 その日は深夜2時を回っていた事も有り、見張りの警察官がいる中で、警察署で寝ることになった。 そして翌日、様々な事情聴取を受けた後、思いがけない事を聞かされた。 僕が「傷害罪」および「ストーカー行為」により容疑者となってしまったのだ。 「傷害罪」はあの日の夜、大家の息子に飛びかかり手紙を投げつけた行為が当てはまるらしい。 確かにそれは納得できた。 しかし、彼女への手紙の筆跡鑑定をしたところ、僕の字に当てはまったそうだ。 そんな事は無い。 あんな手紙を書いた覚えなど無い。 僕は叫んだ。 「全て、大家の息子が企んでいるんだ!」 だが、警察は冷静に言った。 「確かに、大家の息子さんは一年前にすみれさんにストーカー行為をしていたが、逮捕された後は時々深夜に外出する引きこもりになり、今はもう何もしていない」 僕は何かの間違いだと吐き気がしてきたが我慢して、一人の救世主を思い出した。 そうだ! 彼女の証言を聞かせれば反論できるはずだ! 僕は思いきり叫んだ。 「彼女のすみれに聞いて下さい!僕がウソをついてない事が証明されます!」 すると警察は驚かずにこう言った。 「あぁ、すみれさんからもすでに話は聞いたよ。その内容が君の逮捕に繋がったんだ」 「え・・・?」 どうやらすみれが言うには 「私はストーカー行為を受けています。犯人は分かっています。別れようとした彼氏です。彼に別れ話を切り出したら断られて、ある日急に私のアパートの下に住み始めました。そして、毎日、私のお風呂の音を聞いたり、ゴミ袋を漁ったりして、気持ちの悪い手紙まで寄越すんです」 それを聞いた僕は真っ青になった。 「なんだそれは・・・それは大家の息子がやっていたことだろう・・・?」 意味が分からなかった。 彼女はウソをついているのだ。 そう思ったが、見せられた手紙は確かに僕が書いたような字だった。 警察は続ける。 「それともう一つ。昨日警察署に泊まってもらってから分かったことだが、君は夢遊病の可能性が高い。昨晩、またあのアパートに行こうとしたのは覚えているか?」 「ウソだ・・・」 僕は親や今までの彼女からもそんな事を言われた事は無かった。 「まったく・・・寝たかと思うと突然起き出して、「彼女を助けに行かなきゃ!」なんて叫んで走り出すもんだからビックリしたよ・・・」 僕はもう何も言えずにその場に座り込み、ただただうつむくしかなかった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 僕には「すみれ」という元彼女がいた。 自分で言うのも変かもしれないが、すみれはとても美人だ。 彼女とすれ違った男性の10人に8人は「美人」だと言い、振り返るだろう。 そんな彼女の魅力に取り憑かれてしまったら、自分でも気づかない間に彼女にストーカーをしてしまうのだろう。 僕は女性に対する「人間不信」となり、釈放された後は、おそらくあの大家の息子同様に夜中に徘徊することになってしまうのだろう。 世間一般から見たらストーカー被害者は間違いなく彼女だが 本当のストーカー被害者は僕と大家の息子かもしれない。 以上です。 読んでいただきどうもありがとうございました。 ストーカー被害を受けていた友人の話を元に書いてみました。 もし、同じストーカー行為をしてしまっている人がいたら、もしかしたら美しい彼女から離れることが解決に繋がるかもしれませんね。
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