三章

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 そのまま特に話す雰囲気にならず、なんとなく黙ったまま歩は進む。一言の会話もないままいつも別れるT字路に着いてしまった。能力はとっくに解いていた。 「じゃあまた明日」  気を遣ったわけじゃないけど、この日は珍しく僕から別れを告げた。 「うん。また明日ねぇ」 彼女は小さく手を振り、自分が進む方向へと歩いていった。僕も帰るべき道を進む。彼女とは逆方向だ。  十歩ほど歩いた時、彼女の声が背中に届いた。 「あたしさ! 吉田君のこと、ちょっとだけ好きかも!」  振り返ると手でメガホンを作った彼女がいた。僕は別れ際の冗談だろうな、と適当に会釈だけ返しておいた。今、もう色は見えていないけど、さっき見て僕のことが好きじゃないことは確認済みだ。それからは振り返らずに帰路を辿った。  しかしすぐにまた僕は歩いてきた道を引き返していた。彼女に返してもらうべき物があったのを思い出したからだった。それは英語のノートで、授業中に爆睡かました彼女に貸してあげていた。理由は今日の授業の内容が分からないと明日提出の課題ができないから仕方なく、だ。  でもそれをまだ彼女が持っているので、このままでは僕が怒られてしまう。親切にしてあげた上に成績まで下げられてしまうのはごめんだった。  
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