一章

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「あー、ごめん。その日はバイト入ってるんだよね」    その瞬間に彼女の心の内側が映し出される。 その色は少しグレーに霞んだような感じだった。そこに一滴の薄い黒が落とされた。それはじんわりと広がりさっきよりも色がほんの少しだけ、霞んだ。  この現象が見えた時はその人がなんらかの嘘をついた時だ。彼女にはきっとバイトではない他の予定があったのだろう。  なぜこんなのが見えてしまうのかは分からない。いつからかは分かる。この嘘の可視化に気づいたのは三年前、中学二年生の時だった。  もし僕にこんな能力がなければ、もっと成績は良かっただろうし、友達だっていたはずだ。この能力のせいで僕の暇つぶしは勉強ではなく『これ』になったし、他人を少し信じられなくなった。 「それなら仕方ないね、残念だけど」 「ほんとごめんね」  ほんの少しとはいえ、彼女の色はまた、白から一歩離れていった。
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