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ある晩、仕事を終え外に出ると、グラウンドを疾走する風のようなものを見た。
よく見るとそれは人で、1つに纏めた髪の束が月の光に照らされ、キラキラと輝いていた。
姿勢良く走るその姿からスラリとした手足が伸びる。
俺はその髪やフォームに見惚れていたが、すぐに意識を戻して、走っている人物に声を掛けた。
「おーい!もう練習時間終わってるぞー!いつまで走ってるんだー?」
「あっ、コーチ!お疲れ様です」
「お疲れ。名取…こんな時間まで熱心だな」
「今日は授業が溜まっていたので、練習時間が短くなってしまって…それに夜風が気持ち良くてつい夢中になって走ってました」
3月とはいえ、夜はまだ冷え込む。
そんな中でも走って火照った身体には夜風が丁度良いのだろう。
「そうか、ただ、あんまり無理すんなよ。春の大会が近いんだから。怪我したら出場出来ないからな」
「はい、今日はここまでにしておこうと思います」
「おう。人の多い明るい道を通って帰ろよ」
彼女を見送り、俺も帰路に着いた。
春の大会で彼女は会場を沸かせる素晴らしい走りを見せた。
だが、その後彼女は何か迷いを断ち切るように一心不乱に走るようになった…
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