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自分はごくりと唾を飲み込むと、目が飛び出そうになるぐらい目を見開いてホワイトボードを見た。佐田コーチはクリップボードを見ると、すーっと息を吸って全員が見守る中、口を開く。バクバクという心臓の音が耳に響き、その間だけは息をするのを忘れていた。この感覚はきっと、自分だけでなく他の部員たちもそうだと思う。
「一人目。橘一生」
「はいッ」
橘は体育館内に響くほど大きな声で返事をすると、ニコッと嬉しそうに笑う。色素の薄い肌が照明に照らされてさらに白く光っていた。茶髪に近い髪が微かに揺れている。
「二人目。古宇田咲来」
「はいッ」
古宇田も橘同様大きな声で返事をすると、嬉しそうに口をニヤニヤさせた。だがこれ以上感情が表に出ないよう、唇にぎゅっと力を入れて堪えている。「咲来」とゴールデンウィーク合宿以来周りから呼ばれているため、昔ほど「咲来」と名前を呼ばれたときに過剰に反応しなくなった。むしろ、もう呆れて諦めているように見える。あれほど永野に下の名前で呼ばれた時には喧嘩をしていたのに、今ではそれが全くない。穏やかだ。
「三人目。永野架」
「はいッ!」
橘と古宇田よりも大きな声で返事をすると、近くにいた部員がうるさそうに顔を歪める。自分もピクっと眉を動かすと、エコーを無視しながら佐田コーチの話に懸命に耳を傾けた。残るはあと4人。
「四人目。瀬野浩平」
「はいッ」
自分は誰よりも一番落ち着いた声で返事をすると、肩の力を抜く。力を抜いた瞬間、安堵の声が漏れ、周りに聞こえていないか辺りを見渡す。幸い、全員力を入れていて小さな音には反応していない様子だった。
「五人目。三上渚」
「はいッ」
三上は張りがある声で言うと、ふーっと息を吐く。長い前髪は瞳を隠し、喜んでいるのかどうかが分からなかった。だが口元の笑みを見て、嬉しいという感情が伝わってくる。きっと瞳もそれ以上の喜びを見せているのだろう。
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