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「まぁ、そいつのあだ名が霖海の貴公子なんだけど」
「嫌なあだ名だねぇ」
世田谷が唇を尖らしながらネクタイを結ぶと、古宇田が苦笑いを浮かべる。
「すっげぇイケメンでさ、女子からもキャーキャー言われてるいけ好かない奴なんだよ」
世田谷が説明すると原が「へー」と気の抜けた相槌を打つ。自分はネクタイを締めると、首を回して、ゴキゴキッという音が鳴ったので怖くなって止めた。
「頭の回転が速くて、切れ者。常に笑顔だから何考えてるのかマジで分からないし、本当に厄介」
永野が溜息を漏らすと、橘も同情するように頷く。
「でも霖海で厄介なのは綾瀬さんだけじゃないよね~」
笹が横から言うと、橘がまた頷き溜息を吐いた。
「綾瀬のペアの三輪充貴も厄介なんだよ」
「三輪充貴?」
自分は聞き返すと、永野が頷く。三輪、という名前は一度も聞いたことが無い。県大会で当たったことが無い奴なのだろうか。それとも原のように県大会に一度も出場したことが無い選手なのだろうか。
「茶道の名家、三輪流の跡取りなんだとか」
「おお、何だか分からないけどかっけー!」
原が目をキラキラさせながら橘の話にガッツくと、永野が「それな」と言って賛同した。茶道の名家、というと武家茶道のことだろうか。あまりそっち方面には詳しくないから三輪流が何だか分からないが、それでも跡取りということはさぞかし大変なのだろう。加えてバドミントンもしているのだから、毎日が忙しそうだ。
「中学から初めて一度も県に出たことが無いらしいが、高校になってからその才能が開花したんだよ」
「綾瀬のお陰だろうなぁ」
「環境で変わるって言うしな」
永野は深く頷くと、「でもそれだけじゃないんだよ」とまた言葉を紡ぎ始めた。
「同じ三年には工藤と永田もいるし」
「工藤と永田って、工藤七海さんと永田紘さんですか?」
「おう、そうだ。桑染中の」
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