プロローグ

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 聞こえてきたのは顧問からのの数々だった。『赤星(あかぼし)学園中学校男子バドミントン部』の横断幕の近くに母親の姿は無く、自分の目の前にはあの忌まわしき顧問が嘲笑うかのように罵倒、暴言を吐いている。そして瞬きをした瞬間、顧問は頬を押さえ倒れており、辺りからはどよめき声が上がっていた。  あっという間に自分が悪者の立場に立ち、あれほど自分をイジメていた顧問は心配される側に立っていた。人生なんて、被害者が一番弱いのだろう。だから周りが被害者を助けたがる、支えたがる。でも加害者だって悩みを抱えている。んだ、脆いんだ。それなのにどうしてそんな目で見られないといけないのだろう。  今でも繰り返し思い出されるあの忌まわしき記憶。抹消したいのにできない不快な記憶。夢にまで見るほどの悪夢だ。うなされて、体を蝕まれ、心を蝕まれ、そして毒は段々と溜まっていき、外に吐き出されることなく体を染め上げる。  あの時の気温、湿気、視線、色、全てが鮮明に思い出された。はっきりと体の全神経にまで伝わり、唇が震える。手を伸ばしても誰も掴まず、見えるのは真っ暗な闇。何も見えない。何も聞こえない。ただ広がる闇。狭いようで、広いようで。暖かいようで、冷たいようで。誰かがいるようで、誰もいないようで。何もかもが曖昧な闇。真っ暗な闇。
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