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福井はまた柔らかく手首を使ってドロップすると、ストレートに球がふわふわと浮遊しながら落ちた。誰もが目を見張るようなショットだ。
——ドロップじゃないと思った……。
それはどうやら佐田コーチと村上先生もらしく、向こうのベンチに座っている雪ノ下も驚いたような顔をしていた。木暮でさえも目を丸くしている。
永野は反応が遅れると、ヤバいと直感的に自分は思った。絶対に落とすな。落としたら、そこで終わってしまう。絶対に、落とすんじゃない。思わず腰を浮かしていた。目を大きく見開いて、瞬きをすることさえ忘れて見入っている。
永野が足を開く。ラケットを伸ばす。シャトルがコートに落ちる前にガットに触れた。ホッと安堵する。でも安堵は早かった。
永野が触れた球はネットの高さよりも半分ほどしか浮かず、ネットを超えずに永野のコートに落ちた。それが何を意味するのかを誰もが悟ったが、皆見ないようにしていた。認めざる終えなかったのは、主審が「ゲーム」と言った時だった。
二階からは拍手喝采が起こり、雪ノ下も大喜びしている。霧高だけがその場で喜ばず、へたりと魂が抜けたようにもぬけの殻状態となっていた。永野はペタリとコートに座り、立ち上がれそうにいないでいる。
負けた。雪ノ下に負けた。ゴールデンウィーク合宿と結果は何ら変わりも無かった。惜敗だ。
永野はよろよろと立ち上がって、喜びを浮かべる福井と握手をするとコートの外に出る。その姿を見て、誰も動かなかった。動けなかった。
「よし、整列だ」
唯一動けたのは佐田コーチだけだった。冷静にそう言い、立ち上がる。
「整列だ」
少し語気を強めて言うと、ぞろぞろと皆立ち上がった。それから最初に整列したコートに集まる。
長かった雪ノ下との戦いが終わった。霧高は敗退。雪ノ下は決勝進出。霧高のインターハイが、今日終わった。
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