プロローグ

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 そしてそこから伸びる一つの。こちらに向かって伸ばされたその手に向かって、自分は手を伸ばす。掴んだ手のひらからは微かに温度を感じて、心が一気に揺れた。腕を引っ張られ、闇から引きずり出される。瞬きをした瞬間、自分は明るい場所にぽつんと座っていた。あの時には見れなかった夢の続き。。  「おーい」と誰かの声が聞こえ、振り向く。そこには誰もおらず、今度は別の場所から「おーい」という声が聞こえる。今度は違う人の声だ。また「おーい」と聞こえ、別人に変わる。声はするものの、姿は見えず自分はぽつんとその場に座っていた。 「浩平(こうへい)!」  すぐ後ろで声がして、振り返るとそこには一人の男が立っていた。背が高く、どこか信頼感がある雰囲気を持っている男はを着ている。顔は光の加減で見えず、ただ声だけが聞こえた。自分の名前を呼ぶ声。その声は次々と聞こえてきた。高い声。低い声。中性的な声。大きな声。小さな声。様々な色を持った声と一緒に、見えなかった姿が自分の周りに現れ始める。全員が自分に向かって手を伸ばし、「おいで」と優しい声で言った。  自分は手を伸ばすと、全員がガッチリと腕を掴む。そして引っ張り上げた。その勢いで立ち上がった自分は、やっと相手の顔を見ることが出来る。そこに立っていたのは、姿だった。
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