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「今遠まわしにおっさんって言ったな、お前」
「おっさんでしょ。もう50過ぎてるんだし」
「はー、俺も昔はファンクラブがあって女子からキャーキャー騒がれてたんだからな。トレンディー俳優みたいに」
「はいはい」
父の話を流しながら部屋に戻ると、パジャマからユニフォームに着替えて、その上からジャージを羽織った。霧山高校のスクールカラーである緑を基調としたユニフォームに初めて腕を通して、何だか胸が高鳴る。背中には「霧山高校」と一段目に書かれており、二段目には「神奈川県」の文字が書かれていた。ズボンは白色で、ミートソースやカレーうどんは絶対に溢してはいけないほどの白さだった。それを包み込むように、真っ黒なウィンドブレーカーパンツを着用する。
ラケバを持ってリビングに戻ると、トーストをかじる父が自分を見て「おお」と声を上げた。
「似合うな」
「そう?」
「うん。イキイキしてるように見える」
父はそう言ってトーストをまたかじると、ポロっとパンくずが食卓の上に零れ「ああ……」と小さく漏らす。自分は洗面台へ行き、鏡でその姿を見ると確かにイキイキしているかもしれないと感じた。少なくとも、赤星の時よりは絶対にイキイキしているはずだ。この鮮やかな緑も、それを象徴しているかのように色を主張している。
リビングに戻ると、自分用に焼かれたトーストに「いただきます」と言ってかじる。バターのコクが口の中で広がり、口が勝手に開いた。パクパクとトーストを食べ進め、先に父が食べ終えると流し台に食器を置く。続けて自分も食べ終えると、同じく皿を流し台に置いて水に付けた。
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