プロローグ

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 時刻を見ると、まだ出るには時間がある。洗い物をちゃちゃっと済ませ、昼飯の準備に取り掛かった。昨日のうちに炊いておいた米を、敷いたラップの上に乗せ梅干しを置く。三角の形にし、またラップを敷くと今度は昆布を米で包んだ。三つ目のおにぎりの具には鮭フレークを選び、米で包み込む。合計3つの大きめなおにぎりを作ると、それにゼリーをプラスし、ランチバッグに入れた。  今度は冷蔵庫からスポーツ飲料水を取り出すと、バド用の水筒に注ぎ込む。並々まで注がれたスポーツ飲料を少しだけ飲むと、蓋をした。 「浩平、今日大会何の種目だっけ?」 「団体戦」 「へー、団体戦か。何で出るの? シングルス?」 「さぁね、シングルスで出るかもだし、ダブルスで出るかもしれない」 「へー、浩平がダブルスかぁ。珍しいね。今、誰と組んでるんだっけ? (つな)君? 「綱は三晴(みはる)に行ったよ。俺が組むのは、は……武臣(たけおみ)」  合宿帰りにこれからは下の名前で呼び合うことを思い出し、咄嗟に出た「原」を呑み込み「武臣」と言う。やはり時間が経っても慣れない。父は珍しそうに自分を見ると、それを煙たがるように視線を反らした。 「その武臣君は強いの?」 「……まぁまぁ。まだ伸びるから分からない」 「優勝できると良いねぇ」 「できると良いねじゃなくて、から」 「おお、いい心構えだ」 「そんで全国にも行く」 「そっか、頑張って」 「うん」  父は緩めたネクタイをきつく結び直すと、荷物を持って「じゃあそろそろ行くわ」と言って玄関へと向かった。自分より少しだけ先に出る父に「いってらっしゃい」と言うと、父が「行ってきます」と言って外に出た。
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