プロローグ

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 母が生きていた時のように愛妻弁当は無いし、家に帰っても母の手料理はもう食べれないけれど、それでも父は必死で自分を育てるためにお金を稼いでくれている。バドミントンを辞めろとも言わず、自分の好きなようにしてくれていた。 「頑張るよ、父さん」   そんな父の為にも、今日の団体戦は絶対に勝つ。勝って、ベスト8に入ってやる。の時代はもうお終いだ。これからはが幕を開ける。  父が出てから少し後に家を出ると鍵を閉め、ちゃんと閉まったのを確認してから歩き始めた。マンションから駅へと向かうと、行く途中で同じく部活に出かける学生たちを見かける。サッカー部に野球部にバスケ部、テニス部もいる。様々な部員たちがそれぞれのジャージを羽織り、駅への道のりを歩いていた。もしかしたら自分と同じで大会なのかもしれない。それとも練習試合だろうか。  父と同じでスーツを着たサラリーマンもいた。祝日だというのに、出勤とは大変だ。ご苦労様です、と思いながら駅に入るとICカードをかざして改札を通る。平日、学校に通うときよりも人出は少なく、しんと静まり返った駅内はよく駅員のアナウンスが耳に届いた。やって来たタイミングで電車がやって来て、運良くそれに乗ると適当に座る。人出が少ない電車も何だか新鮮だった。  団体戦の試合が行われる玄天(げんてん)高校は霧高と同じ横浜北区にありながらも、場所は離れているためいつもと乗車駅が異なる。電車に揺られる時間もいつもより長かった。
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