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俺が小園にだけ嘘をつくようになったのは、小学三年生に上がった春のことだった。
たまたま席が隣で肩まで伸びた髪をウサギの髪ゴムで二つくくりにしていた小園に、挨拶がてら声を掛けた。
「なぁ、コーヒー牛乳って茶色い牛から出るらしいぜ」
小園は急に話しかけられて驚いたのか、猫みたいな大きな目を瞬かせて俺を見た。そして言ったのだ。
「本当!? それってすごい!」
こんな反応をされたことのない俺は、一瞬で恋に落ちた。信じて疑わない目は、俺にとって新鮮以外何物でもない。
明らかに嘘だと分かることをあっけなく信じた小園は、その日から俺のからかいの対象になった。
「あのデカいタンク、恐竜の卵なんだぜ」
「ラーメンのメンマって割りばしなんだって」
「ガム飲み込んだら消化に七年かかるらしい」
低学年まで俺の言うことに何の疑いも持たず「すごい、物知りだね!」なんて純粋に信じていた小園だったが、小学六年生にもなると自分がからかわれていることを理解し始め、中学に上がってからは「はいはい」とあしうようになった。
「小園」
「なに?」
「セミの抜け殻十個集めると願いが叶うんだって」
「あんたまだそんなこと言ってんの。バカじゃない」
周りも「また始まった」と呆れ顔だったが、傍から見ても「好きな子にちょっかいを掛ける構図」だったので面白がられていたように思う。本人は気付いてるのか知らないけど。
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