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「井上くん、新規プロジェクトの資料は?」
「あ、はい。これです」
「ありがとう」
山岡稔は、亀石コーポレーションの一大プロジェクトの統括を担っていた。
神妙な面持ちで、資料に目を通す。
井上健輔は、自分のデスクに戻ると次第に口角を上げ、肩を揺らしながら笑いを堪えていた。
馬鹿め。山岡。それは今回のプロジェクトの資料なんかじゃない。
今度の合コンの企画資料だ。
そう。
この井上は、大嘘つきの大馬鹿者だ。
井上。馬鹿め。本当はそんな資料必要はない。
お前を試しただけだ。
そして、この合コンの予定表。
あたかも合コンを控えているかのように見せつけて、実はそんな合コンの予定など無いことを俺は知っている。
山岡も負けず劣らずのバカだ。
そんな同僚に囲まれて、稲垣芳雄は、苦労していた。
この世に平気で蔓延る嘘。
何を信じるべきなのか。
芳雄にとってそれは。
「よしお、よしお。今晩、どう?奢るぜ」
同期の坂池が声をかけてきた。
「ほんとか⁉︎絶対だからな。いつもみたいに嘘でーす。は無しだからな」
「わかってるよ」
こんな時代に似つかわしくなく、芳雄は素直で正直者だった。
だからこそ、周りのふざけたような態度に腹立たしさを感じている。
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