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「『孫は?』会う度にこれだ。我々にその気はないとも伝えてみたが、全く聞く耳を持たなかった」
ところどころで、恵美子が鼻を啜る音がした。
「来る日も来る日も伺いを立ててくる義母さんに、耐えきれなかった。とうとう俺らは嘘をついた。授かりましたよって」
重幸の声も次第に震え出した。
「ところが、その言葉に安心したのか、翌月に義母さんは他界した。義父さんもその前に亡くなられてたから、これで全て丸く収まった、そう思った」
大きく鼻から息を吸い、芳雄を見た。
「子供がいたら、こんな子だったかなあ。そう恵美子と話していた。そしたら、何故かそこにお前がいた。恵美子はお前を産んでいないのに。驚いて腰を抜かしたよ」
重幸はここで口を閉じた。
恵美子のしゃっくりが、間を繋いだ。
「つまり、嘘ついたらその嘘から俺が産まれたと?ばかばかしい」
芳雄は状況を飲み込めず、首を横に振った。
「信じられないのも無理はない。だが今でも、お前の出生届も戸籍もない。書面上はお前は存在しないことになっている」
芳雄ははっとした。
これまでに、戸籍情報が必要な手続きに立ち合った覚えも、関わった覚えもない。
そう言う場面がある度に、重幸が任せろと自ら請け負ってきたのだ。
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